Gallicaの日本資料を翻刻!

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次第(しだい)に鎮(しづま)り狂(くる)ひ回(めく)らるゝ事 止(やみ)ければ。館(やかた)【舘は俗字】の上下 稍(やゝ)心を安(やす)んじ。浄蔵(じやうざう)の行力(ぎやうりき)を最(いと)頼(たの)も しくぞ思(おもひ)ける。されども天の責(せむ)る所の患病(くわんびやう)なれば。左府(さふ)は身体(しんたい)痩衰(やせおとろ)へ飲食(いんしよく)倶(とも)に癈(すた) り病床(びやうしよう)に打臥(うちふし)瘂(おし)の喚(うめ)く如(ごと)く喘(すだ)かれける。浄蔵(じやうざう)は昼夜(ちうや)加持(かじ)の檀(だん)に在(あつ)て法華経(ほけきやう)を読(どく) 誦(じゆ)せられけるに余(あま)り舌(した)の乾(かは)きければ。湯(ゆ)を飲(のま)んと暫(しばら)く経(きやう)を読(よみ)止(やま)れける。時(とき)に。大臣(おとゞ)の左(ひだり)の耳(みゝ) の孔(あな)より青色(あをきいろ)の小蛇(こへび)三寸 許(ばかり)首(くび)を出(いだ)し。舌(した)を閃(ひらめ)かして座中(ざちう)を見回(みまは)しける。是(これ)を見て侍病(かいほふ)に 侍(はべ)る女房(にようばう)近習(きんじゆ)們(ら)大いに駭(おどろ)き。皆(みな)身(み)の毛(け)を堅(よだて)二目(ふため)とも見る者(もの)なく。《振り仮名:兔首|うつむき》に成(なつ)て戦慄(ふるひわなゝき) けり。浄蔵(じやうざう)も駭然(おどろき)ながら。道徳(どうとく)勝(すぐ)れし勇猛(ゆうみやう)の僧(そう)なれば。些(ちつと)も怖(おそれ)ず又 法華経(ほけきやう)を 読誦(どくじゆ)せられければ。蛇(へび)は耳孔(みのあな)へ退入(ひつこみ)けり。是(これ)より浄蔵(じやうざう)一口(ひとくち)にても読誦(どくじゆ)を止(やめ)らるれば件(くだん)の 青蛇(せいじや)耳孔(みゝのあな)より首(くび)を出(いた)し座中(ざちう)を見回(みまは)す事 以前(いぜん)のごとく。経(きやう)を読(よめ)ば退入(ひつこみ)誦(じゆ)し止(やめ)ば出(いで)ける にぞ。さしもの浄蔵(じやうざう)も■(あぐみ)【「忄+悪」は辞書に見当たらず。 注】果(はて)根気(こんき)を疲(つから)してもてあましけるに。遂(つひ)に時平(しへいの)大臣(おとゞ)蛇(へび)の出初(いでぞめ) し日より第(だい)三日めに。大いに煩悶(はんもん)し虚空(こくう)を摑(つかん)で狂死(くるひじに)せられける。天罸(てんばつ)の程(ほど)ぞ恐(おそろ)しかりける 【注 好華堂野亭 著『扶桑皇統記図会』,誾花堂,明19.7. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/771530 (参照 2023-12-03)では(活字本)「困」になっている。】