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そも如何(いかに)成行(なりゆく)世の中ぞや。かゝる時(とき)に古(いにしへ)の空海和尚(くうかいおしやう)の如(ごと)き名僧(めいそう)あらば。火災(くわさい)洪(かう)水
をも法(ほふ)力を以(もつ)て鎮(しづ)め玉ふべきに。今の世の僧(そう)は宦位(くわんゐ)衣服(いふく)は尊(たうと)げに見ゆれと。凶変(けうへん)を
祈(いのり)防(ふせ)ぐ程(ほど)の名僧(めいそう)もなしと呟(つぶや)き合(あひ)けるに遂(つひ)に其 風説(とりさた)大内(おほうち)へ聞え。空海(くうかい)が著述(ちよじゆつ)せし
書籍(しよじやく)何(なに)によらず宦庫(くわんこ)へ納(おさ)むべしと勅詔(みことのり)下(くだ)りけるゆへ。臣下(しんか)奉(うけたま)はり東寺(とうじ)の僧侶(そうりよ)
に宣旨(せんじ)の趣(おもむ)きを伝(つた)へければ。一山 挙(こぞつ)て喜悦(きえつ)の眉(まゆ)を開(ひら)き。真言宗(しんごんしう)の美目(びもく)是(これ)に過(すぎ)
ずとて倉廩(さうりん)を捜(さぐ)り。空海師(くうかいし)十八才の時(とき)述作(じゆつさく)有(あり)し三 教指帰(けうしき)を先(さき)として一代
の著書(ちよしよ)は玉造(たまつくり)と題(だい)せし仮名草子(かなざうし)まで輯(あつめ)て是(これ)を献(たてまつ)りける。依(よつて)其書(そのしよ)を尽(こと〴〵)く
朝廷(てうてい)の宦庫(くわんこ)へ納(おさ)めしめ玉ひけり。吾朝(わがてう)に名僧(めいそう)多(おほ)き中にも如此(かくのごとく)上天子より下万民(ばんみん)
にいたる迄(まで)末世(まつせ)の今も猶(なを)尊信(そんしん)する空海和尚(くうかいおしやう)の法徳(ほふとく)こそ又 類(たぐ)ひなかりける
菅公(かんこう)贈宦(ぞうくわん)《振り仮名:賜_二神号_一|しんがうをたまふ》 延喜帝(えんぎてい)御譲位(こじやうゐ)四海太平(しかいたいへいの)条(こと)
延喜帝(えんぎのみかど)菅霊(かんれい)の祟(たゝり)【崇は誤】を鎮(しづめ)玉はん為(ため)に。空海和尚(くうかいおしやう)の策文(さくぶん)を不遺(のこらず)大内(おほうち)の文庫(ぶんこ)に