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に出(いで)某(それがし)は金窪兵太(かなくぼひやうだ)が組下(くみした)の者にて候。主将(しゆせう)兵太(ひやうた)義(ぎ)昨日(さくじつ)戦場(せんぜう)にて咽(のんど)に流矢(ながれや)を受(うけ)矢(や)
を検(あらた)め候に広瀬(ひろせ)八郎 勇(いさむ)と記(しる)しあり。依(よつ)て金窪(かなくぼ)程(ほど)の者(もの)にだい大事(だいじ)の手(て)を負(おは)せる高
名(めう)を世上(せじやう)へ知(しら)せざるも残念(ざんねん)に候へば。御賞翫(ごせうくわん)には候まじけれども。名(な)を惜(をし)む武士(ぶし)の本意(ほんい)
に任(まか)せ受(うけ)たる矢(や)に着(ちやく)せし兜(かぶと)を添(そへ)て贈(おくり)候なり此由(このよし)御申あつて其主(そのぬし)へ御 渡(わた)し給(たま)はる
べしと慇懃(いんぎん)に相演(あいのべ)ければ。継縄(つぐなは)大いに感(かん)じ。東夷(あづまゑびす)は義(ぎ)も恥(はぢ)【耻は俗字】も知(しら)ずと聞(きゝ)つるに流石(さすが)
名(な)に負(おふ)勇士(ゆうし)とて。かへす〴〵優(やさし)き志(こゝろざし)感(かん)ずるに余(あまり)あり。武士(ものゝふ)たらん者は尤(もつと)も斯(かう)こそ有(あり)
たけれとて。即剋(そくこく)【尅は俗字】古佐美(こさみ)が麾下(はたした)に属(ぞく)せし広瀬(ひろせ)八郎を召出(めしいだ)して。金窪(かなくぼ)が志(ころざし)を言(いひ)聞(きか)
せ。矢(や)と兜(かぶと)を渡(わた)し使者(ししや)には引出物(ひきでもの)を与(あた)へまた兵太(ひやうだ)へとて金瘡(きんさう)の膏薬(くすり)を渡(わた)して帰(かへ)
されけり。其後(そのゝち)矢(や)と冑(かぶと)を取寄(とりよせ)て見らるゝに。実(げに)も篦深(のぶか)に射(い)たりと見えて矢篦(やの)血(ち)に
染(そみ)たり。次(つぎ)に冑(かぶと)を提(ひつさ)げて見らるゝに。大 剛(がう)の者の着(ちやく)せし兜(かぶと)とて甚(はなは)だ斤目(きんめ)重(おも)く容易(たやすく)は
揚(あげ)がたかりければ。愈(いよ〳〵)感心(かんしん)ありて広瀬(ひろせ)には褒賞(ほうび)として太刀(たち)一振り(ひとふり)与(あた)へられければ。八郎 押頂(おしいたゞき)