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て涙(なみだ)を流(なが)し。金窪(かなくぼ)は万夫不当(ばんぶふとう)の剛(かう)の者(もの)とは承(うけたま)はり候へども。斯程(かほど)まで武道(ぶどう)の義(ぎ)を重(おも)ん
ずる者とは思(おもひ)候はず。其身(そのみ)の仇(あだ)たる某(それがし)の高名(かうめう)を人に知(しら)せんとて。此(この)二品(ふたしな)を贈(おくり)し心の清(すゞ)し
さ真(しん)の大丈夫(だいじやうぶ)と申は金窪(かなくぼ)の事(こと)にて碌々(ろく〳〵)たる某(それがし)なんどの不及(およばぬ)ところに候。されば此二品(このふたしな)は
子孫(しそん)へ語草(かたりぐさ)【艸】の種(たね)に申 請(うけ)候べし。御褒美(ごほうび)の御 太刀(たち)は恐(おそれ)ながら御返進(ごへんしん)し奉り候 其故(そのゆへ)は
全(まつた)く某(それがし)金窪(かなくぼ)を目当(めあて)に射(い)たる矢(や)にても無之(これなく)只(たゞ)敵(てき)の襲(おそ)ひ来(きた)るを防(ふせ)がんため放(はなし)候ひ
し矢(や)が不測(ふしぎ)に金窪(かなくぼ)に中(あたり)候ひしにて偶然(まぐれあたり)の手柄(てがら)にて候へば真(まこと)の高名(かうめう)とは申がたしとて
辞退(じたい)して退(しりぞ)きけり此 広瀬(ひろせ)も又心ある武士(ぶし)なりと皆(みな)倶(とも)に感(かん)じけり。大将(たいせう)継縄(つぐなは)は今(こん)
度(ど)の敗軍(はいぐん)に就(つい)て熟(つら〳〵)思惟(しゆい)せられけるは。何分(なんぶん)敵(てき)は地理(ちのり)に精(くわし)く。味方(みかた)は土地(とち)不案内(ふあんない)に
て奇兵(きへい)を用(もちゆ)るに不便(ふべん)なれば。何卒(なにとぞ)心(こゝろ)利(きゝ)たる国人(くにんど)を召抱(めしかゝへ)ばやと。専(もつは)ら其人(そのにん)をぞ求(もと)め
られける。茲(こゝ)に奥州(おうしう)の産(さん)に安達(あだち)八郎といへる強盗(がうどう)有(あり)けり。元(もと)は当国(とうごく)信夫郡(しのぶごふり)の農民(のうみん)の
子(こ)なりけるが生得(しやうとく)力(ちから)飽(あく)まで強(つよ)く腕立(うでだて)を好(この)み。心 放蕩(ほうたう)にて農業(のうぎやう)を嫌(きら)ひ。十四五才