Gallicaの日本資料を翻刻!

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包(つゝま)ず御 名(な)を名告(なの)られ候へと申されければ。大漢(おほをのこ)が曰。某(それがし)幸(さいは)ひ有(あつ)て今夜(こんや)善(ぜん)知識(ちしき)に見(まみへ) 奉る上は。罪障(ざいせう)懺悔(さんげ)のため名告(なのり)候べし。実(まこと)は安達(あだち)八郎と申 不良(よからぬ)業(わざ)を為(なす)者(もの)に候 穴賢(あなかしこ)他(た)の人に謀(それがし)が名(な)を漏(もら)し給ふまじと口止(くちどめ)しける。禅師(ぜんじ)点首(うなづき)争(いかで)か余人(よじん)にも洩(もら)し候べ き拙僧(せつそう)も安達謀(あだちなにがし)と申されし時(とき)より夫(それ)と推量(すいりやう)いたせり。此仏場(このぶつぜう)へ来(きた)られしは仏縁(ぶつえん)の 深(ふか)きところなれば拙僧(せつそう)の愚案(ぐあん)を演(のべ)候べし凡(およそ)世上(せじやう)の人に初(はじめ)より不善人(ふぜんにん)はなし皆(みな)若(わか) 年(げ)の血気(けつき)に任(まか)せ悪(あし)き友(とも)に交(まじは)り其(その)所為(しわざ)に做(なら)【注】ひて何(いつ)しか悪道(あくどう)へ入 無量(むりやう)の罪(つみ)をも 造(つく)るなり。人間(にんげん)の一 生(せう)に百 才(さい)を保(たもつ)は稀(まれ)なり僅(わづか)なる夢(ゆめ)の世(よ)を送(おくら)んとて。あたら英雄(ゑいゆう)の 身(み)を狗党(くとふ)の群(むれ)に沈(しづ)め。人を殺(ころ)し火(ひ)を放(はな)ちて暴悪(ばうあく)の名(な)を遺(のこ)されん事かへす〴〵も 朽惜(くちをし)けれ。御辺(ごへん)の勇智(ゆうち)を以(もつ)て公(おゝやけ)に事(つか)へ国家(こくか)の為(ため)に忠戦(ちうせん)を励(はげ)まれなば。帝王(ていわう)の為(ため) には忠臣(ちうしん)と賞(せう)せられ。父母(ふぼ)先祖(せんぞ)の為(ため)には孝道(かうどう)立(たち)ぬへし。美玉(びぎよく)を泥土(でいど)に埋(うづ)むは最(いと)惜(をし) かるべき事ならずやと理(り)を竭(つく)して教化(きやうけ)ありければ。八郎 感伏(かんふく)し。実々(げに〳〵)難有(ありがたき)御教示(ごけうじ) 【注 「做」は「作」の俗字にて語義も「作」に同じ。ここの文脈においては「傚」か「倣」が妥当と思われる。】