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守(まも)りけり。素(もとよ)り切所(ぜつしよ)【注】の山上(さんじやう)に構(かまへ)し柵(さく)にて左右(さいふ)は老樹(らうじゆ)鬱茂(うつも)【欝は俗字】として狐免(こと)も駈(かけ)りがたく大手(おほて)
搦手(からめて)には櫓(やぐら)高(たか)く建(たて)ならべ大木(たいぼく)大石(たいせき)を積(つみ)貯(たくは)へて旗(はた)の手(て)を風(かぜ)に靡(なびか)し究竟(くつけう)の射人(いて)鏃(やじり)
を揃(そろ)へ敵(てき)寄来(よせきた)らば微塵(みぢん)にせんと待(まち)かけたり。去程(さるほど)に宦軍(くわんぐん)は大手(おほて)搦手(からめて)一斉(いつせい)に金鼓(きんこ)【皷は俗字】
を鳴(なら)し喊(とき)を発(つくり)曵々(ゑい〳〵)声(ごゑ)して攻登(せめのぼ)る。先(まづ)大手(おほて)の坂手(さかて)よりは大伴益立(おほともましだち)が先駈(さきて)五百人
持楯(もちだて)を被(かづ)き連(つれ)て柵際(さくぎは)近(ちか)く攻寄(せめよせ)けるに。賊軍(ぞくぐん)も鬨(とき)を発(つくり)矢(や)を射下(いおろ)す事 雨(あめ)の如(ごと)
くまた大木(たいぼく)大石(たいせき)を鉤瓶(つるべ)【鈎は俗字】かけて投落(なげおと)しければ。寄手(よせて)是(これ)に辟易(へきえき)し人(ひと)頽(なだれ)して引退(ひきしりぞ)く。時(とき)
に柵門(さくもん)をさつと開(ひら)き栗原源三(くりはらげんざう)三百 騎(き)を卒(そつ)して撃(うつ)て出(いで)噇(どう)と喚(おめい)て打(うつ)て下(くだ)る
にぞ。大伴(おほとも)が勢(せい)弥(いよ)崩立(くずれたつ)て坂下(さかした)まで逃下(にげくだ)りける。賊兵(ぞくへい)はしたゝか敵(てき)を伐(うち)悩(なやま)し手軽(てがる)
く勢(せい)を引上(ひきあげ)て柵中(さくちう)へ引入(ひきいり)けり。大伴益立(おほともましだち)大いに怒(いか)り小勢(こぜい)の敵(てき)に後(うしろ)を見する事
や有(ある)と新兵(あらて)を入替(いれかへ)て攻登(せめのぼ)りけれども賊軍(ぞくぐん)木石(ぼくせき)を投下(なげおろ)し矢(や)を茂(しげ)く射下(いくだ)し
寄兵(よせて)痓(ひる)めば伐(うつ)て出(いで)嵩(かさ)より捲(まく)り落(おと)しけるゆへ京軍(きやうぐん)兵(へい)を折(くじ)くのみにて何(なん)の
【注 字面の訓みは「せっしょ」。切所は地勢がけわしい所に設けた砦のことなので、高い崖などによって道の絶えたところを言う絶所(ぜつしょ)と懸けた表現か。】