Gallicaの日本資料を翻刻!

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ページ: 80

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継(つぐ)君恩(くんおん)を忝(かたしけな)しとも思(おも)はず猶(なを)も帝(みかど)を傾(かたむ)け奉り。己(おのれ)王位(わうゐ)を践(ふま)んとおぼろげならぬ 大望(たいもう)を企(くはだて)酒宴(しゆえん)遊興(ゆふけう)に托(ことよ)せて月卿雲客(げつけいうんかく)を我(わが)邸舎(やしき)へ招(まね)き。其(その)心腹(しんふく)を試(ため)して 一 味(み)荷担(かたん)させ。兼(かね)て召抱(めしかゝへ)し家人(いへのこ)に大和乙人(やまとのおとんど)とて無双(ならびなき)忍術(しのび)の名人(めいじん)あり。其者(そのもの)を 内裡(だいり)へ潜入(しのびいら)せ。軍勢(ぐんぜい)をかたらひて不意(ふい)に宮門(きうもん)押寄(おしよす)るとき。喊(とき)の声(こゑ)を相図(あひづ)に内(うち)より御(ご) 門(もん)を開(ひら)かせんとて入込(いりこま)せけり。乙人(をとんど)は忍術(にんじゆつ)の達人(たつじん)なれば。二三日 以前(いぜん)より太刀(たち)刀(かたな)を帯(はい) て。さしも衛護(まもり)厳(きび)しき禁闕(きんけつ)へ潜入(しのびいり)けるに見咎(みとがむ)る者もなかりければ。仕(し)すましたり と独(ひとり)咲(ゑみ)し。回廊(くわいらう)の蔭(かげ)に身(み)を潜(ひそ)めて相図(あひづ)を待(まち)けるに。天の君(きみ)を謀(はか)り奉らんとする 天 罸(ばつ)にや頻(しきり)に咳嗽(せき)出(いで)けるゆへ。強(しい)て咳(せき)を抑(おさ)へ止(とめ)んとすれども咳(せき)止(とま)らず。堪(こらへ)かねて 我(われ)しらず数声(すせい)咳嗽(しはぶき)けるにぞ。禁中(きんちう)夜回(よまは)りの衛士(ゑじ)是(これ)を聞咎(きゝとが)め。只今(たゞいま)の咳嗽(しはぶき)は正(まさ) しく廊下(らうか)の辺(ほとり)に聞(きこ)えたり。此辺(このへん)に人の居(ゐ)るべきやうなしとて。松明(たいまつ)を揮立(ふりたて)て其辺(そのへん)を 尋(たづね)捜(さが)しけるに。果(はた)して廊下(らうか)の下(した)の隅(すみ)に怪(あやし)き人 影(かげ)見えければ。須波(すは)や曲者(くせもの)こそ