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あれとて。夜回(よまは)りの武士們(ぶしら)曳出(ひきいだ)して搦捕(からめとら)んと犇(ひしめ)きける。乙人(をとんど)今は逃(のが)れぬところと心(むね)を
定(さだ)め帯(はい)たる太刀(たち)抜持(ぬきもつ)て挑(おと)り出(いで)。先(さき)に立(たつ)たる武士(ぶし)を礑(はつた)【噹は誤記】と斬(きる)。何(なに)かは以(もつ)て堪(たゆ)るべき。真(まつ)
向(かう)より切割(きりわら)れて噇(どう)ど倒(たを)れ伏(ふし)けるにぞ。是(こ)は狼藉(らうぜき)なりと残(のこ)る武士(ぶし)ども太刀(たち)抜連(ぬきつれ)
て切(きつ)てかゝる。乙人(をとんど)は死物狂(しにものぐるひ)と働(はたら)きて又一人を切仆(きりたを)し二人に手(て)を負(おは)せたり。されども己(おのれ)も
二ヶ 所(しよ)手(て)を負(おひ)て踉(よろめ)くところを。大勢(おほぜい)前後(ぜんご)より取囲(とりかこ)み。太刀(たち)を撃落(うちおと)し両脚(もろずね)を薙仆(なぎたを)
しており重(かさな)り。遂(つひ)に高手(たかて)に縛(しば)り上(あげ)。有司(ゆうし)の庁所(くじば)へ曳行(ひきゆき)有(あり)し始末(しまつ)を訟(うつた)へければ。有司(ゆうし)
駭(おどろ)き即剋(そくこく)拷(がう)【足+考は誤記ヵ】問(もん)に及(およ)びけるに。始(はじめ)の程(ほど)は左右(とかく)言紛(いひまぎら)して白状(はくでう)せざりけるが。度(ど)〱(ゝ)の呵(か)
責(しやく)の苦痛(くつう)に堪(たえ)かねて口(くち)を上(あげ)。某(それがし)誠(まこと)は氷上川継(ひのかみかはつぐ)殿(どの)に奉公(はうこう)する者にて候が。川継殿(かはつぐどの)
当今(とうぎん)を傾(かたむ)け奉らんと謀叛(むほん)を思立(おもひたゝ)れ。明(めう)十日の夜(よ)一 味(み)合体(がつたい)の人々(ひと〴〵)と多勢(たせい)にて御(ご)
所(しよ)の北門(きたもん)より襲(おそ)ひ入んとの手筈(てはづ)にて。某(それがし)は忍術(にんじゆつ)に達(たつ)して候へば。兼(かね)て御所中(ごしよちう)へ潜(しの)び入
相図(あいづ)次第(しだい)に御門(ごもん)を内(うち)より開(ひら)けよとの下知(げぢ)に従(したが)ひ。潜入(しのびいつ)て廊下(らうか)の下(した)に隠(かく)れ居(ゐ)候なり