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怨(どふり)給ひ食事(しよくじ)を断(たつ)て淡路(あはぢ)へいたり給はぬ途中(とちう)にて飢死(うえじに)し給ひけり。されども王法(わうぼふ)なれ
ば其(その)御 屍(しがい)を淡路(あはぢ)へ送(おく)り葬(ほふむ)り進(まい)らせ給ひけり。然(しかる)る【衍】に太子(たいし)の悪霊(あくれう)の所為(しわざ)にて
都(みやこ)に種々(いろ〳〵)の怪異(けい)あらはれ諸人(しよにん)其(その)ために魘(おそ)はれ。あるひは病着(やみつき)。あるひは死亡(しぼう)する
者 夥(おびたゝ)しかりければ。皆(みな)早良太子(さうらたいし)の怨霊(おんれう)のなすところなりと言触(いひふら)し上下 恐惑(おそれまど)ひ
都鄙(とひ)の謳歌(とりさた)喧(かまび)しかりければ。帝(みかど)も是(これ)を患(うれ)ひ給ひ。諸寺(しよじ)の僧綱(そうかう)に詔(みことの)りを下(くだ)し給ひ
太子(たいし)の怨霊(おんれう)を鎮(しづ)めさせ給へども。更(さら)に其(その)験(しるし)なく倍(ます〳〵)奇怪(きくわい)の事のみ多(おほ)かりける
斯(かく)て年月(ねんげつ)推移(おしうつ)り。延暦(えんりやく)六年の冬(ふゆ)より雨(あめ)降(ふら)ず翌(あくる)七年の五月 迄(まで)も猶(なを)雨(あめ)一 滴(てき)
も降(ふら)ざれば川々(かは〴〵)水(みづ)沽(かれ)【涸の誤記ヵ】池(いけ)溝(みぞ)も水 竭(つき)て農民(ひやくせう)耕作(かうさく)する事を得(え)ず斯(かく)ては百草(ひやうさう)枯(かれ)
果(はて)五穀(ごこく)を植(うゆ)べき便(たより)なしとて万民(ばんみん)の歎(なげ)き大方ならず。米(こめ)麦(むぎ)豆(まめ)粟(あは)の価(あたひ)追々(おひ〳〵)
高価(たかく)なり世(よ)の困窮(こんきう)言(いは)んかたなし。是(これ)も早良太(さうらたい)子の悪霊(あくれう)の祟(たゝり)【崇は誤記】
なるべしと言合(いひあひ)
けり。帝(みかど)再(ふたゝ)び睿慮(えいりよ)を悩(なやま)し給ひ。五幾(ごき)【ママ】内(ない)の霊仏(れいぶつ)霊社(れいしや)へ宣命(せんめう)を下(くた)され雨(あめ)の祈(いのり)