翻刻
老人小児。又盤後家やもめなどは。いかゞして食越徒なく事やらんと
思ひや連ば。む年ふさがる。又或時一人の六十六部尓行つ連し尓。此六部
残越流して余尓語連る尓は。此間山中尓行暮て。とある民家尓
入て宿り越求めし尓。老人娘登二人居たりしが。宿をゆるさ須。
強て乞しかば。食物なしといふ。米盤こなた尓貯へたりといふて。
續て内尓入たる尓。二人とも尓いとちから那く久敷病るやうな連ば。
いかゞし給ふやととふ尓。二人とも涙を流し。近きなど盤一かう尓
食せ須。女房盤十日ばかり以前既尓餓死せり。忰も四五日前にうへ尓
つか連死せり。親なりといふ我等盤少しつゝ食越あたへく連しゆへ
今まて盤生のひぬといふ尓。興さめて驚き。さても哀連なる事
を承はるか那。嘸かし苦しく候はん。先此焼たる食越志よくし給へと
出せる尓。老人と娘互尓譲り合ふて食せ須。いか那る故尓此場尓いた
りてゆつり合給ふや。こ連尓てたら須は。猶此袋尓一升はかり盤貯へも
候へば。二人とも尓心置須食し給へと強たりし尓。老人のいふやう盤。
御志盤忘連かたく忝く候へとも。今宵此飯をたべ候ひても。明日より
の食物なし。さす連ばなましい尓食して。苦しみを永くする道理
なり。たゞ一日もはやく死行ん事こそ今日の望なり。娘盤また年
若き身な連ば。明日尓もせよ。万々一殿様より御恵の年尓ても
あらば。命たすかる事もや有べき。少し尓ても食し。一日尓ても活の
びよかし。老人ははや思ひ残須事もなし。女房忰のはや死行