翻刻
【十四頁】
【枠外-十】
此国に重金丸といふ名劔(めいじん)あり・これはもと・山北王 帕尼芝(はくにし)日本
よりゑし太刀(たち)にて・ことさらに秘珍(ひちん)してつたへしか・應永(おほゑい)年中
尚巴志とたゝかひ・数度(すど)の功(こう)はなすといへとも・士卒(しそつ)こと〴〵く降人(こうにん)に
いでしかは・山北王はたゞ一騎(いつき)大軍をきりぬけ・志慶真河(しけまかい)の
ほとりまでにげのびしに・漁人(ぎよじん)きたりて・日本へおち給へかし
あないしまいらせん・とすゝめけれども・はかりことにやあらん
と・うたがひて・みつからこの太刀おつとり・おのれが首(くび)をかき切
て・太刀とともに川ヘなげこみてぞ死したりける・その後・百年
をへて・文明の頃・尚真王の代にあたりて・親泊村(おやとまり)の川中より・
よな〳〵白氣をはなち・金龍(きんりやう)のごときもの・のほることしは〳〵なり
【十五頁】
しかは人々これをあやしみおそれて・そのほとりへちかつくことも
なかりしが・こゝに惠平屋島(ゑへやしま)の人に・強健(ごうけん)のものありて・此所に
かよひ・一夜(ひとよ)金氣ののぼるをまちゑて・はたとうちおとしければ・
たしかにてこたへして・水底(すいてい)に雷声(らいせい)のこときおとあり・此ものすこ
しもひるまず・ゑたりとくゞり入て・もとむるに・一ふりの太刀
をそゑたりける・いそぎ此よしを申て・王に献(けん)ず・群臣(ぐんしん)これを
けみするに・重金の銘ありければ・これそいはゆる・山北王の
珍重(ちんてう)たりし・重金丸の宝劔(ほうけん)なることうたかふへくもあらすとて・
国王第|の宝劔とはなりぬ・いまにその所を・護劔渓(ごけんけい)と
なづく・一説に爲朝の太刀なりと云・