翻刻
【十八頁右】
石田(いしだ)村といふ所にかくれすみ給ひて・一子をうむ・幼名(やうめう)を石(いし)
麻呂(まろ)となづく・此石麻呂 晩年(ばんねん)におよんで・瞽(めしい)となれり・月
琴の秘曲を・父母よりうけゑたりしかば・そのかたちをものずき
して・丸胴(まるどう)を角(かく)胴に製(せい)し・八乳(やつち)の描皮(ねこのかは)をもちて・両面(りやうめん)にはり・
月琴の意(こゝろ)を以て・海老尾(かいろうび)に月のかたちをのこす・此人のち
増官(ぞうくはん)して・石村検校(いしむらけんぎやう)とはなれりけり・
月琴は晋(しん)の阮咸(けんかん)あかかねをもて・丸銅につくりしをはじめ
とす・すべて三絃(さみせん)は元(げん)の代(よ)にはじまれりと・楊升菴詞話(やうしやうあんしわ)
にしるせるはあやまりなり・すでに唐(とう)の崔令欽(さいれいきん)が敎(こう)
坊記(ほうき)にもみゆ・琉球にては・椰子(やし)をもて胴をつくり・うす
【十八頁左】
き板(いた)にて・うらをはり・蛇皮(じゃひ)《割書:エラブウナギと云海蛇の皮|もつとも大なるをもちゆ》をもて
おもてを張(はり)・石村かくどうにせいしかへし・製作(せいさく)は・總尺(そうしやく)
三尺・《割書:天地人の|三極に表ス》棹(さを)二尺余・《割書:陰陽の|両氣》海老尾五寸・《割書:五|星》胴幅(どうはゝ)・六寸・《割書:六|合》
同長六寸余・《割書:地の六種|震動》厚(あつさ)三寸・《割書:高下平の|三形》轉手(てんしゆ)・絃手(けんしゆ)・また天(てん)
柱(しゆ)とも書す・《割書:天のかたち|を表す》糸巻・《割書:三|台》一の糸・《割書:虗|精》二の糸・《割書:陸|淳》・三の糸《割書:曲|順》
一越(いちこつ)・斷金(だんきん)・平調(ひやうてう)・勝絶(しやうぜつ)・の四を一の糸これを兼(かね)・下無(けむ)・雙調(そうてう)・
鳬鐘(ふせう)・黄鐘(わうせう)・の四を二の糸にそなへ・鸞鐘(らんせう)・盤渉(ばんしき)・神仙(しんせん)・
上無(しやうむ)・の四を三の糸にかねて・十二調(しうにてうし)こと〳〵く三絃(みすぢ)にそなふ・
今世にもちゆる三線は・總長三尺一寸五分・海老尾五寸二分・
棹二尺五分・胴幅六寸・同長六寸六分・天手三寸五分・なり・