翻刻
【二十五頁右】
いにしへの八郎爲朝ときゝつたへおれば・こと〴〵くうやまひおそれしも
おかし・それよりツバノコのやかたに滞留(たいりう)して・日々打とけてもの
かたりしけるが・もはや船も出来あがり・帰國(きこく)ほどちかくなり
ければ・ツバノコがいふやう・貴国(きこく)は大国にてことに冨饒(ふにやう)の地にし
あれば・何ひとつとしてたらざることはあらじ・されどかほどに
したしみまいらするからには・かたみにまいらすものとて外には
候はねど・我先祖中国に往来して・うけゑたりし・竒薬(きやく)
あり・惹意(とくゐ)牽情散(けんじやうさん)と申はたはれたる薬にて・わかき人々の
もてあそぶには・竒代(きたい)の法なれば・傳授(でんじゆ)まいらすべし・
御用ひ候て御わらひ候へかしとて・方書(ほうしよ)をしめす・
んどう
【二十五頁左】
牡丹花 天茄子花 天仙子 《割書:各等分》
右細末にして茶あるひは酒に入ておもふ婦人に飲(のま)しむる
ときはたちまちに情をうこかすと如神
いよ〳〵出帆の時いたりければ・國王より四人の者をそへて送(おくら)
らしむ・その名は・孝貴(こうき)・伊久麻(いくま)・美里二(みりじ)・那古祢(なこね)・とそいひける・
八郎はあつく恩(おん)をしやして・かれらをめしつれて・うかみ出しが・
その日のひるすきより・雷雨(らいう)はなはだしく・慕風(ぼうふう)【暴風の誤ヵ】しきりに起(おこ)りて・
いかりをおろせば引きられ・楫をそんじ・帆柱をおる・又もかゝる
めにあふものかなと・海神をまつり・金毘羅をねんじ・髪(かみ)
をきりてはなげいれ・その外 具足(ぐそく)太刀(たち)のたくひまでもなけ入