翻刻
【右丁】
らずと云へるありあらき了簡(りやうけん)なり又 或(あるひ)は病人の
様体(やうたい)病因(びやういん)などを聞(き)かす脈(みやく)はかりを見(み)て医者(いしや)より
病因(ひやういん)様子(やうす)などをいふて病家(ひやうか)を驚(おどろか)すありこれは
巫(みこ)山伏(やまぶし)など見どをし【陰陽師】うらかた【占い師】の類(るい)なり望聞問(はうもんもん)
切(せつ)の四 診(しん)を用(もち)ひされば病證(ひやうしやう)は見(み)るべからずしかるを脈(みやく)
を用ひず或(あるひ)は脈(みやく)ばかりにて病症(ひやうしやう)を知(し)るといふは《振り仮名:皆〻|みな〳〵》
奇説(きせつ)を云(いゝ)て素人(しろうと)を欺(あさむ)くなりしかしこれにて病症(ひやうしやう)
を知(し)り薬(くすり)を用ひて一〻効(しるし)あらは名医(めいい)なり効(しるし)なけ
ればかたりの賊(ぬすびと)なり
医者(いしや)の言(ことば)に取捨(しゆしや)ある心得
【左丁】
信(しんして)_レ巫(ふを)不(す)_レ信(しんせ)_レ医(いを)とは扁鵲(へんじやく)六不治(むつのふじ)の一ッなりこれは巫(みこ)道士(やまふし)な
どのいふ事(こと)を信(しん)して医者(いしや)の云(いふ)ことを信用(しんよう)【左ルビ:しんしもちひ】せざる病人(ひやうにん)は
治(ち)せずとなりまづ病人(ひやうにん)は医者(いしや)の言(ことば)に従(した)ひ外(ほか)より
彼是(かれこれ)と差出(さしいつ)ることを用(もち)ゆべからずしかし医者(いしや)のいふ
事(こと)信(しんし)しがたきことならば其(その)医者(いしや)を転(てん)すべきなり
又 大病(たいひやう)必死(ひつし)【𣦸ヵ】の證(しやう)にて諸医(しよい)手(て)を尽(つく)したる後(のち)に初(はしめ)て
来(きた)れる医者(いしや)の珍敷(めづらしき)【「珎」は「珍」の俗字】病名(やまいのな)をつけて療治(りやうじ)するに程(ほど)な
く病人(ひやうにん)死(しす)れは其(その)医者(いしや)の云(いふ)今(いま)一両日(いちりやうにち)早(はや)くば療治(りやうじ)も
なるべきに先医(せんい)の了簡(りやうけん)ちがいにて手(て)おくれして残(ざん)
念(ねん)なりといふこれ所詮(しよせん)快氣(くわいき)せまじき様体(やうだい)ゆへ