翻刻
【右丁】
奇病(きひやう)を云(いふ)て素人(しろうと)を驚(おとろか)し過(あやまち)を先医(せんい)におゝせ我術(わじゆつ)
を衒(てらふ)なり病家(ひやうか)个様(かやう)の言(ことば)に迷(まよ)ひて今少(いますこ)し早(はや)く
此(この)医に療治(りやうじ)をたのまば本復(ほんぶく)すべしなどゝ後悔(こうくわい)する
は大なる惑(まどひ)なり又 今時(いまどき)はやり療治(りやうし)する人に病人(ひやうにん)を
請合(うけあい)て治(なを)すと云(いふ)医者(いしや)まゝありこれは病家(ひやうか)に慥(たしか)に
思(おも)わせて薬(くすり)を売付(うりつく)るなりこれらの言(ことば)は必(かなら)す信(しん)
じ用ゆべからす又さすり按摩(あんま)とりなどの言(ことば)をむさ
と信すべからず按摩(あんま)とりなどに病(やまい)のわけを知(し)る人
はすくなきもの也
薬を煎ずる心得
【左丁】
薬(くすり)を煎(せん)ずる事(こと)病家(ひやうか)第一(だいいち)の心得(こゝろえ)なり随分(すいぶん)念(ねん)を入(いる)
べき事 肝要(かんよう)なり水(みづ)の分量(ぶんりやう)生姜(しやうが)の多少(たしやう)など医者(いしや)
にとくとたづねとふべし傷寒(しやうかん)感冒(かんぼう)其外(そのほか)邪氣(じやき)にあ
たりたる病(やまい)急病(きうびやう)には火(ひ)をつよくして早(はや)く煎(せん)し上(あく)べ
し又 内傷(ないしやう)の病 補薬(ほやく)などは大(たい)ていの火(ひ)にて《振り仮名:緩〻|ゆる〳〵》と煎(せん)
ずべししかしあまりぬるき火はあしゝ扨(さて)煎(せん)しあげ
たらば其(その)まゝ薬袋(くすりぶくろ)をあげ置(おく)べし薬袋をつけて
おけば薬氣(やくき)もどるなり又 嘔吐(ゑづき)の症(しやう)か或はつかへ又は薬
ぎらいには初(はじめ)に湯(ゆ)をたゝせ薬(くすり)を入(いれ)随分(すいぶん)つよき火にて
急(きう)に煎(せん)ずべし又 人参(にんじん)の入薬ならは別(わけ)て念(ねん)を入れ