翻刻
【右丁】
妄(みた)りに仲景流と称するは仲景の不幸(ふしあわせ)なりしかし
痼疾(こしつ)又は平生(へいぜい)達者(たつしや)なる人か田舎(いなか)の健(すこや)かなる人には埒(らち)
明(あき)てよき療治なり
古方後世の分を知る心得
古方家(こはうか)とは宗元明(そうげんみん)などの諸(しよ)方書(はうじよ)を用ひずして
専ら漢(かん)の仲景(ちうけい)の傷寒論(しやうかんろん)金匱要略(きんきようりやく)などの古(ふる)き方(はう)
を用ゆる故(ゆへ)に名(なづ)くとなり又仲景流ともいへり此(この)流(りう)
義(ぎ)は陰陽五行(いんようごぎやう)と云(いふ)事は道家(どうか)の説(せつ)なりとて用ひす又
素問(そもん)難経(なんきやう)は後(のち)の世(よ)の人の偽作(ぎさく)【左ルビ:いつはり】なりとて読(よま)ずさて
薬(くすり)は皆(みな)毒(どく)なり毒を以て病(やまひ)をせむるのみ死生(しにいき)は命(めい)なり
【左丁】
医者(いしや)の知(し)る事にてなしとて虚実(きよじつ)【左ルビ:よわしつよし】を問はず専ら攻(こう)【左ルビ:せめ】
撃(げき)【左ルビ:うつ】の剤(ざい)を用ゆるなりさて道三(どうさん)以来(このかた)今(いま)まての医者(いしや)
東垣(とうえん)丹渓(たんけい)の説(せつ)により入門(にうもん)回春(くわいしゆん)などの方(はう)を用るを古
方(はう)家より後世家(こうせいか)といふ後(のち)の世(よ)に云(いゝ)いだせる説(せつ)にした□【がヵ】
ふ故(ゆへ)なりとぞ此流は随分(ずいふん)人にあたらぬ様(やう)にとて平(へい)和【左ルビ:やわらか】
なる薬を用ひやわらかなる療治ゆへ貴人(きにん)多(おほ)く用ひらる
因(よつ)て世俗(せぞく)に典薬療治(てんやくりやうぢ)と云(い)へり
医書(いしよの)名目(な)俗解
天下(てんか)の医書(いしよ)おびたゝしき事(こと)にて牛(うし)に汗(あせ)し棟(むなぎ)に
充(みつ)ればなか〳〵筆(ふで)に尽(つく)しがたし故(ゆへ)に世人(せじん)のよく