翻刻
【欄外】 手引草 上
【右丁】
おくる口にある舌(した)は歯(は)のかみたるをうけて五味(ごみ)をわかつしかのみならず
歯と舌とにて五音相通(ごいんさうつう)をめぐらすの用あり○耳(みみ)は言語(ものいひ)物音(ものおと)を
聞(きゝ)て万用をなし音曲(おんぎよく)のたのしみも耳にあり
○目○口○鼻(はな)○耳(みゝ)の四ッ片時(かたとき)もなくてかな
はぬも物みな頭にあり頭は人躰(じんた[い])の根本(こんほん)なれば
天の人を作り給ふ時頭は勝(すぐ)れた堅固(けんご)に
こしらへてありまづ俗(ぞく)にあたまと
いふ脳髄(のうずゐ)を膜(まく)といふて
皮(かは)のやうなる物にて二重(ふたゑ)に
包(つゝ)みそのうへを脳蓋(のうがい)とて二重に
【左丁】
かさなりたる骨(ほね)の厚(あつ)さ一寸よの
骨にて囲(かこ)み又その上を厚き皮に
つゝみ猶その上にも頭を色々囲ふ
ために髪(かみ)の毛を一ぱいに生(はや)しおく也
さるによりて素問(そもん)といふ医書(いしよ)に頭は
精明(せいめい)の府なりといひ本草備要(ほんざうびえふ)
には人の記性(ものおぼへ)は皆 頭脳(づのう)中に在といへり
小児(せうに)は脳(のう)いまだ満(みた)ざるゆゑ物を覚へず老人は脳精(のうせい)漸々(しだい)に耗(へる)ゆへ
健忘(ものわすれ)する也 盲人(まうじん)は見るに心 散(ちら)ざるゆえ神気(しんき)脳中に満(みつ)るゆへ
強記(ものおほへつよく)和漢(わかん)古今(こゝん)の書を耳にきゝて一字一句もわすれず天下に