翻刻
【欄外】 手引草
【右丁】
袋はちり〳〵とちゞみてもとのごとくの子宮(しきう)に成也 胞衣(しんな)のとれたる後(あと)が
臍(へそ)也臍は人になりたる源(みなもと)也○こゝに一ッの話(はなし)あり京山 北越雪譜(ほくえつせつふ)の
実地(じつち)を踏(ふま)ば猶おおもしろきこともあらんと越後(ゑちご)の塩沢宿(しほざはじゆく)の鈴木(すゞき)
牧之(ぼくし)が家に逗留(とうりう)の内 漁師(れうし)をよびて鮭(さけ)のことを問(とひ)し話(はなし)の中
に鮭(さけ)海(うみ)より川にのぼり子をおろす時 女魚(めな)尾(お)さきにてほどよき水(すゐ)
中(ちう)の砂(すな)をかきわけ子(こ)を産(うみ)つくれば一疋(いちひき)の女魚(めな)に二三疋の男魚(をな)つき
そひて女魚(めな)の産(うみ)つけたる子へ男魚 腹(はら)にある白子をひり付
尾(を)さきにて砂をかけて子を埋(うづめ)おく也 明年(あくるとし)の春三月頃にいたり
この子 小鮭(こさけ)となりて海(うみ)へくだる也魚に白子(しらこ)のあるはすべて男魚(おな)
なり白子は子にひり付て育(そだ)つる為の物也と漁師(れうし)いへりこれを
【左丁】
おもへば鮭(さけ)にかきらず何れの魚(うを)にも白子(しらこ)あるゆゑ子を育(そだ)つるは
鮭(さけ)のごとくなるべし魚も人も男の陽精(やうせい)をもつて子の骵(たい)をつくる事
その理(り)一なるは天(てん)の霊工(れいこう)不可思議(ふかしぎ)なりけり
○さて又 妙(めう)なることは魚(うを)はことさらに人の多く喰(たべ)る物ゆゑ一ッひきの
魚(うを)に数万(すまん)の子あり人を養(やしな)ふ五穀(ごこく)は一 粒(りう)の種(たね)より数千粒(すせんりう)を出(いだ)
すこれ又天の妙作(めうさく)なり人も一人より五人十人の子あるべきに嫁(か)
しても五年十年 腹帯(はらおび)しめざる婦人(ふじん)あり妊(はらま)ざる婦人を西土(もろこし)にて
石女(せきぢよ)といふ妊(はらま)ざるに五ッの訳(わけ)あり其一ッは婦人 天稟(うまれつき)て卵巣(らんそう)の袋(ふくろ)に
玉子(たまご)すくなく且又(かつまた)ありても粃(しいな)のみにて人の種(たね)にならず又二ッには夫(をつと)の
精気(せいき)弱(よは)くて玉子を子宮(しきう)へ弾(はじき)入(い)る力(ちから)なくて子をまうけず又三ッ