翻刻
【右丁】
身(み)修(をさま)る聖人(せいじん)の教(をしへ)にも四十五十にして聞(きこ)ゆることなきは以(もつて)おそるゝにたら
ずといへり四十は初老(はつおい)とて精気(せいき)盛(さか)り極(きはま)りて次第(しだい)に元気(げんき)衰(おとろ)へ天地(てんち)の気(き)
候(こう)も陽(やう)おとろへ花(はな)も菊(きく)のみ残(のこ)る四十より五十 迄(まで)が冬(ふゆ)なり冬 深(ふか)くなれ
ば木(こ)の葉(は)落(おち)人も歯(は)がぬけ頭(あたま)に霜(しも)をいたゞく此時(このとき)にいたり霜除(しもよけ)の養生(やうじやう)
をせざれば天寿(てんじゆ)をちゞむ恐(おそ)るべし〳〵○此事 前(まへ)にも言(いひ)しがよく〳〵心(こころ)えべき
ことゆゑ又いふ○今(いま)より百三十 余年(よねん)のむかし世(よ)に名高(なたか)かりし和漢(わかん)博(はく)
達(たつ)の大儒(だいじゆ)貝原(かひばら)篤信(とくしん)先生(せんせい)の養生訓(やうじやうくん)に養生(やうじやう)の要訣(えうけつ)は十一 少(せう)に
在(あり)といへり十一 少(せう)に言一に食(しよく)を少(すくなく)し二に飲(のむもの)を少(すくなく)し三に五味(ごみ)の
飣(さい)を少(すくなく)し四に ㊁悲(かなし)みを少(すくな)くし九に思(おも)ひをすくなくし
色慾(しきよく)を少し 十に臥(ふす)を少(すくな)くし十一に慾(よく)を少く
【左丁】
五に言(ものいふ) すㇳとあり○一に食(しよく)を少(すくな)くすとは三 度(ど)の
語(こと)少し 飯(めし)十 分(ぶん)たべず今一ぱいとおもふを半(はん)ぶんにて
六に怒(いか)りを 怺(こら)ゆれば消化(こなれ)はやし○二に飲(のむもの)を少くすとは
少し七に まづ第一が酒(さけ)也 百薬(ひやくやく)の長(ちやう)といひたるは
憂(うれい)を少(すくなく)し 少(すこ)しくのみて気(き)を養(やしな)ふをいひしなり
八に㊀ 好(すき)にまかせて大飲(たいいん)をなせば寿命(じゆみやう)を耗(へらす)
の大毒薬(だいどくやく)也 上酒(じやうしゆ)を顕微鏡(むしめがね)でみれば
うへしたよりぐら〳〵わきかへること湯(ゆ)の
熱(にえ)るがごとし是(これ)米(こめ)の極粋(ごくすゐ)なる熱物(ねつぶつ)
なるゆゑなり其(その)気(き)猛烈(まうれつ)なるゆゑにのめば