翻刻
【右丁】
加え悟(さと)り給へ心(こゝろ)は山(やま)に入(い)りたる墨染(すみぞめ)の袖(そで)になりしと思ひ給へとの暁(さとし)也
是(これ)所謂(いはゆる)仏法(ぶつほふ)の一第事(いちだいじ)捨心(しやしん)の悟(さと)りなり捨心(しやしん)とは心を捨(すて)ると
いふこと也 北(きた)の方(かた)此(この)短冊(たんざく)を枕(まくら)べの屏風(びやうぶ)に粘(は)りて朝夕(あさゆふ)見(み)給ひしに
歌(うた)に感(かん)じ迷(まよひ)を払(はら)ひ悟(さと)りをひらきて御 病(やまひ)癒(いえ)しと沢庵遺跡(たくあんゐせき)と
いふ書(しよ)にみへたり○十に臥(ふす)を少(すくな)くしとあるはまづ第一(だいゝち)に朝寝(あさね)をながく
するなといふ教(おしえ)也 朝(あさ)は日(ひ)の昇(のぼ)るに随(したが)ひ陽精(やうせい)の盛(さかんなる)時也人は日の陽気(やうき)
をうけて生(いき)てをるに其(その)陽気(やうき)の盛(さかり)なるをうけずして朝寝(あさね)する人を養(やしな)
はんとて照(てら)し給ふ日輪(にちりん)へ対(たい)してももつたいなく且(そのうへ)に陽精(やうせい)を躯(み)にうけ
ざるは大損(だいそん)也 是(これ)多(おほく)は若(わか)き人に在(あ)り明(みん)人(ひと)謝肈淛(しやてうせい)が五雑組(ごさつそ)に
「日午始興鶏鳴始寝(ひるすぎはしめておきにはとりないてはじめていね)《割書:中略》勤以治生者無之(つとめてやうじやうするものはこれなし)
【左丁】
驕奢淫佚反天地(おごりものみもちあしきものてんち)
之性背陰陽之(のせいにそむきいんやうの) 【図の台詞】
宜莫大不祥焉(よろしきにそむくふしやうこれかのおゝいなるはなし)」 これおきぬか
といへり朝寝(あさね)のわろきを 今にひる
西土(から)でもかくのごとくいましめたり めしだは
又は酒宴(しゆえん)に夜(よ)をふかし臥(ふし)て房(ばう)
事(じ)を恣(ほしいまゝ)になし朝寝(あさね)をなし四方(しはう)から
せめつけて命(いのち)をへらすを楽(たのしみ)とするははかに
ぞやつゝしむべしつつしむべし〳〵○十一に慾(よく)を少(すくな)くすと
あり慾(よく)とは万事(ばんじ)にわたる文字(もじ)