翻刻
【右丁】
心で心を欺(あざむ)く也 忍(しの)ぶとは怺(こらえ)るをいふたとへば病 癒(いえ)て肥立(ひだつ)ころ医者(いしや)が房(ばう)
事(し)を禁(きん)じたるに真実(しんじつ)に忍(しの)び怺(こらへ)ざるゆゑ病(やまひ)ぶりかへし戒名(かいみやう)になるも
まゝあること也おそるべし慎(つゝし)むべし○忍(しの)ぶといふは堪忍(かんにん)なり養生(やうじやう)も堪(かん)
忍(にん)にあり飯(めし)の飣(さい)も二度の魚味(さかな)は一度でかんにんなし三合のむ
酒(さけ)も二合でかんにんなし女も月に二度(ど)か三度でかんにんすれば養生(やうじやう)と
なりて精気(せいき)を益(ま)すにちがひなし堪忍(かんにん)は養生(やうじやう)のみにあらず立身(りつしん)する
も金家(きんか)になるもかんにんにあるなり○書経(しよきやう)に曰(いう)「必有忍其乃(かならずしのぶことあればすなはち)
有済(なすことあり)」といへり又「大なる過(あやまち)は須更(ちとのま)の不忍起(しのばさるにおこる)」といへり
○養生(やうじやう)は老人(らうじん)の隠居(いんきよ)たりともすこしは身をはたら
かすべし食後([し]よくご)は猶(なほ)さらなり呂氏春秋(りよししゆんじう)と
【左丁】
いふ西土(もろこし)の古(ふる)き書(しよ)に「流水(りうすい)
不腐(くさらず)戸樞不螻(こすうむしはます)
動也(うこけばなり)形気亦然(けいきもまたしかり)」
といへり形気とは人の
からだのこと也いかさま毎日(まいにち)
あけたてする戸插(とぶくろ)は虫(むし)のくふ
ことなし是(これ)じやからちとは身(み)を
はたらかせ給へ食(しよ[く])よく消化(こなれ)て気(き)
血(けつ)を補(おぎな)ふ蓋(けだし)この教(おし)へは家来(けらい)をめし仕(つか)ふ
人のこと也 下賤(いやしきものは)めしつかひなきゆゑ老(おい)ても身(み)を
【欄外】
手引草 下 三十三