翻刻
【右丁】
労動(はたらかす)ゆゑ此(この)をしへに及(およば)ず○さて戸の樞(くるゝ)は朝夕(あさゆふ)動(うごく)ゆへに不螻(むしばまず)
といふ説(せつ)につけて一ッの話(はなし)あり京山この書(しよ)の筆(ふで)を採(とり)てゐたるとき
或(ある)大封(たいふう)の君(きみ)に仕(つか)ふる儒官(じゆくわん)訪(たづね)きたり此(この)草稿(したかぎ)をみて謂(いひける)はわが
主人(しゆじん)在国(ざいこく)のとき八十 才(さい)以上(いじやう)の家来(けらい)又は百姓(ひやくしやう)へ物(もの)賜(たま)ひたる
ことありしに九十 以上(いじやう)百を越(こえ)しも百姓(ひやくしやう)にはありつれども家中(かちう)には
なかりけり農夫(のうふ)は常(つね)に美食(びしよく)をなさず身(み)をはたらかすゆへ気血(きけつ)
めぐりて元気(げんき)を養(やしな)ひ戸樞(こすう)むし
ばまぬゆゑ長寿(ちやうじゆ)ならんといへり
とにかく身(み)を働(はたらか)すが養生(やうじやう)なり
○さて按(おもふ)に貴人(きにん)たりとも御男子(ごなんし)は
【左丁】
武芸(ぶげい)はさら也 御身(おんみ)をはたらかせ給ふと
あれども御婦人(こふじん)は物(もの)かき給ふにさへ人に
墨(すみ)をすらせ給ふほどなれば御身(おんみ)をはた
らかせ給ふことおさ〳〵なし夫(それ)ゆゑに御
膳(ぜん)も御ゆとりにして米(こめ)のあぶらを
ぬき御 飣(さい)も細(ほそ)くめし上るゆゑ御
養生(やうじやう)にはなるべけれどなんぞかかつて
にて少(すこ)しは御 身(み)の立居(たちゐ)を遊(あそば)し
気血(きけつ)の潤択(じゆんたく)を量(はかり)給はゞ御長(ごちやう)
寿(じゆ)の基(もとゐ)たるべし古語(こご)にいはく