翻刻
【欄外】
手引草 下 四十
【右丁】
よと妻子(さいし)へいひしと其時(そのとき)聞(きけ)り武事(ぶじ)はさら也 文学(ぶんがく)もあり
篤実(とくじつ)なる好人物(よきじんぶつ)なりしに蜆(しゞめ)半貝(はんかい)の為(ため)に五十 年(ねん)の命(いのち)を
うしなひしは可惜(をしむべし)憐(あはれむ)べしと知音(ちいん)の人〴〵いへりけり
○息(いき)をする気道(きだう)の管(くだ)と物(もの)を食(たべ)て腹(はら)へ下(くだ)す管(くだ)と隣(となり)
あはせなるは前(まへ)の図(づ)にいだしたるごとくなれば飲物(のむもの)一露(ひとつゆ)食物(たべるもの)一ㇳ
粒(つぶ)たりとも吸(すひ)こむ息(いき)をつよくすれば深(ふか)く気道(きたう)へ入(い)るゆゑもとへ
かへらず命(いのち)にもかゝはる事(こと)蜆貝(しゞめかひ)のごとしされば何(なに)によらず吸(すひ)
こみてたべるものは必(かなら)ず用心(ようじん)すべし○こゝに又一ッ心得(こゝろえ)置(おく)べき
ことあり一年(ひとゝせ)我(わが)親族(しんぞく)の一子(いつし)七歳(しちさい)の男子(なんし)山王(さんわう)御祭禮(ごさいれい)見(けん)
物(ぶつ)のため前日(ぜんじつ)より母(はゝ)がつれてきたり一宿(いつしく)の夕暮(ゆふぐれ)此(この)童(わらべ)いか
【左丁】
にやしたりけん銭(ぜに)を呑(のみ)て咽(のと)へつかへひい
〳〵と啼(なく)わらべの母(はゝ)はさら也 人々(ひと〴〵)うち
よりて立(たち)さはぎつれどせんすべなし京山
鉄(てつ)と銅(あかゞね)との銭(せに)を見(み)せていづれをのみし
やと尋(たづ)ねければ啼(なき)ながら銅(あかゞね)を指(ゆびさ)したる
ゆゑまづよしとおもひ近所(きんじよ)にて入魂(じゆこん)なりし
医者(いしや)のかたへはせゆきしか〴〵のよしを
語(かた)りて療治(れうじ)をこひければ何(なに)やらん
一種(いつしゆ)の薬(くすり)を袂にしてうち連(つれ)来(きた)り童(わらんべ)
を仰(あをむか)せむゝろじほどに丸(まろ)めたるものを