翻刻
【欄外】
手引草 四十六
【右丁】
六十 以上(いじよう)の老人(らうじん)の小便(しやうべん)ちかきは精気(せいき)衰(おとろ)へ膀胱(はうくわう)のしまり弱(よはく)なり
て久(ひさ)しく保(たもち)かたきゆゑ也 寒夜(かんや)にしば〳〵便(べん)にかよへば老躰(らうたい)に寒気(かんき)を
うけ春(はる)の暖気(だんき)にいたりて病(やまひ)を生(しやう)ずることあり私瓶(しびん)を用(もちゆ)るは底(そこ)
をあらふことならざるゆゑ臭気(しうき)つきてむさし用(もち)ゆべからず之に長生(ちやうせい)
壺(こ)といふは水(みづ)五六 合(がふ)いれても半分(はんぶん)ほどなるべき深(ふか)さの壷(つぼ)めく瀬戸(せと)
物(もの)の内(うち)にも薬(くすり)かゝりたるに蓋(ふた)をかけたるをおとしぶたの箱(はこ)に入(い)れ提(さげ)る
やうにくわんをうち手拭(てぬぐい)ほどのをくわんにとほし持(もち)ありくたよりとも又は
拭(ぬぐ)ふべきためともなし此箱(このはこ)を寝(ね)ながら手(て)のとゞく所(ところ)へおき夜中(やちう)便(べん)
気(き)の時 夜具(やぐ)の内(うち)へひき入(い)れ心よく便(べん)ずべし俗(ぞく)にいへばしみつたれ
なることなれど聖人(せいじん)の詞(ことば)に老(おい)ては筋骨(きんこつ)を以(もつて)礼(れい)と不慮(せず)といへば老(らう)
【左丁】 【長生壺の図と説明】
人(じん)長生壺(ちやうせいこ)を用(もち)うること愧(はづ)べからず人 長生壺(ちやうせいこ) 《割書:箱はかきあはせに| ぬりてきれいに》
笑(わら)ふべからず○因(ちなみに)云(いはく)しびんの雅名(がめい)を 《割書:なすべし》
虎口(ここう)といふ名義(なのよし)は獅子(しゝ)は死(しん)だ肉(にく)を喰(くら)はず
しかるゆゑ虎(とら)獅子(しし)に遇(あへ)ば臥(ふし)て口(くち)をひらき
死(しゝ)たるまねをする獅子(しし)これを見て
死虎(しこ)なりとおもひ開(ひら)きたる口(くち)へ
溺(ゆばり)をなすこれによりて私瓶(しびん)を
虎口(ここう)といふ也 白楽天(はくらくてん)が雪夜(せつや)の詩(し)に
「竹声知(ちくせいゆきを)_レ雪虎口寒(しりてここうさむし)」といふ句(く)
ありしかれば白楽天(はくらくてん)も虎口(ここう)の