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すべし然ば先蟻の上を見よ蟻は其身至て小さしといへども賢き事は
大なる獣にも勝るゝ也余の生類は当座の食をのみ求めて以後の蓄へ
なし蟻は専以来の蓄へをする者也其によて夏より冬の用意をし冬
喰ふべき物を夏より蓄へ置也しかじ願くは人も彼を鑑みて現世に生を
存ずる中に来世の覚悟をなさんには又蟻は土中に栖家を搆るに犁
鍬をば用ひざれども只口計にて土を掘りほり出したる土をば人の
築地をつくごとく穴の辺りに積をく也其穴も又直にはせず盤折なる
道のことし是我敵を其内に自由に入立ざらん為と見えたり田畠に
出て食を求る時大なる蟻は麦の上に昇りて穂を喰ひ切て落せば
下なる蟻は請取て藁と芒とをきりのけて其の麦粒をわれさき
にと己れが穴に運び行也爰を以て諸の生類の中に蟻ほど力強き
物も別にはなしと見えたり其故は余の禽獣は己れが身程の物を持て
さへ永く行事叶ざるに蟻は身よりも大なる物を終日持運ぶこと明白也
而も有明の月には夜を日に継で運ぶ也爰に猶不思議なる事あり小
麦を穴の内に其まゝ入置かば潤ひを得て生ひ出べきが故にむぎ粒より
苗の萌し出るかたを喰ひ切て置が故に苗になる事叶わず又土中に
久しくをかば終には朽果べきによて天気よければ折々引出して干者也
【枠外右 十七ケ条】