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翻刻
第十七 御作者の御智慧は小さき虫の類ひの
上に弥顕れ給ふ事
倩おもんみるに御作者 ds の量りなき御智慧と御計ひは大なる獣
よりも小さき虫の類ひの上に尚明白に顕れ給ふ也故に学者のぴり
によは象王の大なる体を見るよりも夏の夜の如何にも小さきき蚊を
見るに尚以驚くべき謂れありとなり其辞に云く大なる獣には頭面
手足の隔て五臓六根等の樞りを御作者よりなし給ふ事も輙かる
べし然に蚊虻の小さき体中に此等のあやつりを達してあらせ給ふ
事は猶以不思議也小さき蚊の体の中に物を見る眼もあり食を味ふ
精もあり匂ひをかぐ鼻もあり体に過たる声あり足もあり翅もあり
人の血を好む為の精もあり吸とりたる血を治め置腹もあり又毛
よりも細きくちばし有て而も其中うつほ也加程小さき虫の体に
此等の道具を各々に備へ置給ふ事驚ても猶余りある御作也然に常の
人は大象の櫓を負て行をば驚きて此等の小さき類ひには心を付る
事なしと是ぴりによの辞也是亦道理至極せり故に今爰に小さき
御作の物の上を少々論じて御作者を見知り御智慧を尊ひ奉る媒と
【枠外左 初巻四十四】