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嗚呼奇妙なる才覚哉物のくち腐る事は湿気の所為なる事を蟻には
誰か教へけるぞ蟻に其智慧なしといへども是をよく知しめす御作
者より導き給ふ故也又大にして一度に引事叶はぬ物をば喰ひ切て
度々に運ぶ事是亦不思議の才覚也其よりも不思議なる事ゑり
あゝのゝ記録に見えたり蟻は己れが穴の中を三ッに分る也一には平生の
居所一には食物の蔵と一には死したる蟻の墓所也是信じ難しといへ
ども彼が穴を崩して見れば明白也是に付て昔けれあんてすといふ
学者の見たる事あり此人或時野辺に出て蟻の徘徊するを見るに
余多群りたる蟻の中に死したる蟻を一疋引行也彼人其行方を
みんと窺ふ処に或穴の口に引付てしばし待ゐれば内より一疋出逢て
又内にもどり再三出入して後には余多の蟻ども出来て其死骸を
請取也其時内より蟻一匹蚯蚓のきれを含み出て送りの
蟻どもに与ふれば是を取て各帰る也さて死骸をば穴の内に引こむ也
此心を案ずるに先一疋出たるは彼死骸を己れがくみの蟻なりや否やと
見定めん為なるべし再三出入したる事は見定めて其よしを同類に
告知せたると見えたり而じて余多出たる事は彼死骸を請取らんが
為也又みゝずのきれを与へし事は他門の蟻に礼をいひし心なる
【枠外左 初巻四十五】