← 前のページ
ページ 103 / 202
次のページ →
翻刻
第十八 蜜を作る蜂の事
諸の虫の中に別して其才覚の奇妙なる一ッといふは蜜を作る蜂也
故に昔ありすとうまこといひし人は五十八年の間其様体を窺ひ
みんと精を尽せし者也又或人は野辺に出て彼蜂の巣の辺に庵を
結び不断是をのみ心にかけて見たると也然じて二人ともに蜂の上に
書を作て記し置し者也我今爰にはぴりによとゑりあゝのと云二人の
人の記録せし事を踏へとして書べし読誦の人是を信じ難しと
思ふ事なかれ其故は是蜂の自分の才覚に非ず只此虫の所作をもて
人々に御作者を知しめたまはん為に如何計ひ給ふと心得よ
其程に此蜂は一切の虫に替て主君を持也故に一ッの巣に巣立衆蜂の
中に必余に超て美しく形大なる蜂二ッ三ッ出来る也其内を一ッ主君と
撰び用ひ相残るをばさし殺す者也是多主分乱を恐るゝと見えたり
然ば位に即たる蜂より下知をなして蜜を作らしむるに最初に巣を
作るべき家の内を先衆蜂集りて苦き草のしるをもてぬる也是
蟻虻蛛蟇蛇燕等の類ひ蜜を好み来て喰はんとする時苦きを
【枠外左 初巻四十六】