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頭をふり淡をかみ蹄を揃へてあがり勇める気色浅からざる時は是物を
知りたるに似たり昔あれしあんでれと申せし帝の乗給ひしぶせ
はろといひし名馬は裸なれば舎人をも乗せ鞍を置ては帝より外別に
人をば乗せざりけり而も自ら膝を折り脊をくゞめて帝を乗せ奉ると
いへり殊更馬は弓箭の用に作られたると見えて戦場にては増益
勇気第一也鯨波矢叫の音を聞ば己れも声を合て嘶ひ白刃を見ても
恐れず緋にそみたる死骸を見ても塊を踏むがごとし加程勇み猛き馬
なりといへ共夜がけなどに乗手の気色忍びやかなるを知れば彼も又
気をしづめいばふ声をもたてずといへり是皆御作者の御心に随ひ
奉る故也悲哉人間は御作の御宛所を肖きて専邪路に迷ふのみ也
肥たる馬にのり軽き裘を服て従人多く随ふれば我物がほに憍慢
して御与へ手を尊ひ奉る事まれ也
一獅子は百獣の王たるによて己れが位を知が如く比興の振舞をなさず
若時として猟師より取囲れ為方なければ静に狩場を退く也
物のかげになりて人に見られざると知れば足を早めて逃げ去事
速かなりといへり又其日の餌食を喰ひ余したるをば来日の畜へとは
せず向ひ戦ふ者には害をなし降参の姿あれば仇をなさずと也
【枠外左 初巻五十二】