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去ば魚肉五穀野菜等の自性を転じて人の筋骨血肉と化する
事誠に奇妙第一なれば是を成就すべき為に人の胎中に数々の
道具ありてそれ〳〵のやくをなす者也
最初の道具といふは歯也此やくは食物を嚼砕きて臓腑に渡す事也
先爰に於ても御作者の御智慧の顕れ給ふ事を見よ向歯はひらく
して薄し是食物を喫きらんが為也脇の歯は強くして尖れり是
むかふばの叶はざる堅き物を噛切るに便あり奥歯は広く平らか也是を
もて食をかみ砕く事尤やすし而も石磨の目をきりたるがごとく其
ひらき所に高下ある事猶其用に叶へり舌は亦食をのせて上を下に
打かへし〳〵残る所なく歯にかみくだかする者也歯のやく終りぬれば
かみ砕きたる食を喉の役とし胃の腑に遣す也
喉は二ッある也一は飲食の通る喉と一は息風の通ずる咽是也飲食の
喉は胃の腑に続き其体和かにして常は打しぼみて塞がれり是風
寒の気を通じて胃の腑の熱精をさますまじき為也飲食を用る
時のみ難なくひろがる者也息風の通ふ咽は肺の臓に続く也是指環を連ね
たるごとく堅くして更にしぼみ塞がる事なし是出入る息の障り
なからんが為也然るに其口にも亦覆ひあり鍛冶の鞴の狭間の枢りに
【枠外左 初巻五十八】