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§ 一
其外人の病を治すべき為に作り置給ふ草木は幾千万ぞや其品々に
奇妙なる薬性を含みて諸病を治する事真に奇妙不思議也さて草
木の根葉のみにも限らず玉石の中にも薬性を含める物是多し能々
工夫をめぐらせば御作者の御大切は偏に慈母の子を愛するに異ならず
然に薬にもならず実を結ぶ事もなき山吹長春等の類を何ぞと
見るに是も人の眼を慰ましめ香き匂ひをかぎて心を楽しましめ玉はん
為也山野にさきみだれたる千種の花の色香妙なるを見よ如何なる
画師の筆にか及ぶべきぞ菊の花の上をいへば白菊紅菊さま〴〵にして
真に花の陰逸なる者也春の暮より咲出る牡丹の麗しき事は是亦
花の富貴なる者也此花の朝の露を帯て媚たる分野は如何なる
王服后の衣裳とても嫉む計の粧ひ也池の漣の淤泥より出て濁りに
そまず紅白色を交へあらたに露香しき風情桃李の春の風にゑみ
梨花の雨を帯び梅が香の四方に匂ひを譲る事は古のさろもん帝王の
百福荘厳も争か是にしかんやかほど妙なる事を何の為に作り給ふぞと
見るに人の身を養ふ為には非ざれども慰みの為に肝要なる事を計ひ
与へ給ふ事明白也
【枠外右側に 十ケ条】