← 前のページ
ページ 69 / 202
次のページ →
翻刻
木の実は熟する者也ひげいらといふ樹にも陰陽の二ッあり陽木の合力
なくんば陰木の実熟する事叶ぬと也去ながら是又所による事也
其によて是を知りたる人は陽木の実を取て陰木の枝にかけて置ば
其より小さき虫出て陰木の実にはひ上れば其実よく熟すると也爰に
二ッの奇特あり一には此小虫のわざを以て無味なる物を甘味となし給ふ
事二には彼実幾千万といふ事を知らずといへども件の虫より一ッも
残さず悉くに其味を与ふる事是也是等を思案して御作者を貴ひ
奉るまじきや奇特を顕し玉はぬ物は一ッもなしと見えたり御作の物は
何れも互に合力するやうに計い給ふ事悉皆御作者御一体の御道具
なりと教へ給はん為也前に論ぜしごとく五穀草木を作り与へ給ふと
いふとも一年づゝに其実もはつる物なればいつまでも届くやうに計ひ
玉はずんば輒く失果べきによてそれ〳〵に種を残すやうに計ひ給ふ也此
種も一粒を植て又一粒を生ずるにをひては如何程の事も有まじき
ゆへに御奇特を以て一粒より万倍となるやうに計ひ給ふ也
第十一 禽獣の上を論ずべき序章
【枠外左 初巻 二十九】