翻刻
【右丁】
乱心(らんしん)いたされしか。其 有様(ありさま)は何事と。余(あま)りの
事にものをもいわず。あきれ果(はて)給(たま)へは。
閻王(ゑんわう)はぬからぬ皃にて。貴仏(きふつ)抔(なと)の知らざる
所(ところ)。此 頭(あたま)形状(かたち)は是(これ)日本(につほん)の。通(かよ)ふ神(かみ)の行法(ぎやうほふ)
也。この神(かみ)の法(ほふ)を行(おこな)ふ時(とき)は。万物(はんふつ)に通(つう[し])る
なり。某(それ)かしも地獄を治(おさめ)る身なれは。万物
に通ぜんかため。かよふ神の法(ほふ)を行ふ
といへとも。未(いまた)其道(そのみち)にいらすと。さも細明(つまひらか)に
【左丁】
答(こたゆ)れば。観音(くわんおん)はあきれ果(はて)その通(かよ)ふ神と
いふは我出店。浅草の観音の後(うしろ)に当り。
青楼(せいろう)【注】有り。夫れを守る神なり。此神は
穢(けが)れたる。遊女(ゆうじよ)を守神なれば。日本の
神たちの付合なし。夫はそれにもせ
よ。今度 釈尊(しやくそん)の仰(おふせ)をも聞ず猥(みだり)に
釼の山を堀(ほり)。似(に)せ箔を拵(こしら)へ万仏(はんぶつ)を侮(あなどり)
一二ヶ月を過ぬ内。こと〴〵く赤錆(あかさび)の仏と
【注 女郎屋。】