翻刻
【右丁】
某(それかし)宜鋪(よろしく)申あげん。先夫まては髪(かみ)髭(ひげ)の
生(はへ)るまて。逼塞(ひつそく)致(いた)され。蛮内をば早々(そう〳〵)尋(たづね)
出し。罪人(さいにん)に申付へしと。仰(をゝせ)をもまたず。
獄卒(ごくそつ)ども。今まではうぬひとり。智恵の有
やうなこと斗ぬかし。そのうへ親(おや)玉をば。
あのやふに。通(つう)とやらに仕立。みんな蛮内に
あそばれたやうな者。是からは地獄あらん
かきり。こ吟味せよと。はら立まぎれの。獄卒
【左丁】
ともに詮義(せんき)され。蛮内はせんかたなく。済河原を
うろつく所を。東夷(やろふ)天窓の獄卒(こくそつ)とも。高手こて【注①】に
禁(いましめ)。先なら苦の底へぶちこめと。三万弐千由膳那【注②】。ある。
下へ突落ど。蛮内兼て水銀蝋。雄黄。蛍火丸を。懐中
すれは。身体(しんたい)少も崩(くすれ)す。鬼ともはあきれはて。是から
は中〳〵。一通りの責ではいかぬ。大集熱の火の車にしろ
と。牛頭馬頭の悪鬼。猛火(もうくわ)烈(れつ)〳〵と燃(もへ)あかる。火車
を牽(ひき)来(く)れは。蛮内は莞爾(くわんじ)として。乗移る有様。
【注① 高手小手=人を後ろ手にして肘を曲げ、首から縄を掛けて厳重に縛り上げること。】
【注② ゆぜんな。踰繕那、由繕那とも表記。由旬(ゆじゅん)に同じ。古代インドで用いた距離の単位の一つ。約七マイル(約一一・二キロメートル)あるいは九マイルという。】