翻刻
【右丁】
出。最早只今迄。いろ〳〵の責道具【せめどうぐ】にて責れとも
さつはり平気也。しかしなから余り今迄。我〳〵
を鬼のやうには思わす。大呆(おふたわけ)の愚通(ぐつう)のと。信(まこと)の名(な)は
いわす。余り口かにくし。かれか口のきかれぬやうに。
舌を抜ならは。一生口をきく事ならす。是にて
当分の腹をいる【注①】かよし。何れもいかゝと。黒鬼かくろ
汗たら〴〵申にぞ。一座も是に一決(いつけつ)せり。泰山王(たいさんわう)
分別らしくいわるゝには。いや〳〵娑婆(しやば)にては。舌を
【左丁】
二枚遣うと云事有。定て蛮内もたいてひのやつでは
ないから。あふかた是もこまるまい。此上は彼(かれ)めか罪(つみ)
かれめを責(せめ)る。是道也。きやつか思ひ付の釼(つるき)の山へ。
追登(おいのほ)せと。皆〳〵も騒(さわ)き立。蛮内を引立。釼の山へ
おひ登せば。蛮内は少も騒(さわ)かす。兼て釼の山は
ギヤマン獄英(こくゑい)なれば。羚羊(れいやう)【注②】角(かく)をもつて打砕(うちくた)き
何のくもなく。頂上(てうでう)に登り。煙草(たはこ)ばく〳〵の大安座(あふあくら)。
十王獄卒ども。茶にされ【注➂】たいほど。茶にされ。あれ〳〵
【注① 腹を居る=怒りをしずめる。鬱憤を晴らす。】
【注② カモシカのこと。】
【注➂ 「茶にする」は馬鹿にする意。】