翻刻
【右丁】
《割書:はしめ駿河の岡部忠兵衛といふ者あり武田にしたかつて 後岡部は|忠あるもの也とて これも 土屋と名のらせて備前守といふ総蔵昌恒を》
《割書:此備前守養子になしかの者|兵を昌恒につけられしなり》武田か家ほろふる時に当て一族
郎従こと〳〵く心変して後矢射けるほとに勝頼
ゆくへき方なくして田野の奥天目山といふ所に
をちゆくかたきこゝかしこにきてなとのかるへきやうも
なかりしかは勝頼川のほとりに敷皮しかせて敵を待
跡部尾張守この所にをちあはせてつとはせぬいて
にけんとす総蔵昌恒きつと見てやあいかに跡部
御最期を見捨参らせていつくまてかはにけのひん
不覚さよといふまゝに大の中さしぬき出しよつ引て
【左丁】
はなつ跡部たゝ中をくつと射ぬかれて馬より落て
死してけりそのゝち総蔵は勝頼にむかひ御敵既に
ちかつきぬ昌恒ふせき矢仕らん御心静に御自害
あるへしと申もあへす矢たはねときてをしみたし
近つくかたきをさしつめ引つめ散々に射る無碍に
矢頃は近かりけり一筋もあた矢なく死生はしらす
矢庭に射たふさるゝものこそ多かりけれ其隙に
昌恒か舎兄金丸助六郎昌義小原兄弟《割書:丹後|下総》女房
たちの介錯し腹かき切てふす勝頼みつから太刀を
ぬきあたりをはらひ切てまはる 御曹司信勝これも