翻刻
【右丁】
よつて便宜の地ゑらんて 要害かまへんとて前田
千太郎を留て城を出つ前田たちまちに こゝろ
変し滝川《割書:左近将監|一益》九鬼《割書:右馬允|嘉隆》と謀合て山口か許
に使者をたつて我等か父子佐久間殿をうらみ参ら
する故あつて羽柴殿の御方に参り候ひぬこゝき【「に」の誤記ヵ】
重政の母上此城にとゝめをかれしによつて今 既に
御方の手にわたりぬ重政もし母子の恩を頼み家門の
栄をはかつて御方に参りたまはんには母子の御命
事故なからんはいふにおよはす抽賞さためてすくな
かるへからすといはせけれは重政これを聞て重政
【左丁】
佐久間殿に二心を改せさるか故に母を納て質としき若今
母をたすけんとてうしろめたき事あらんには日比の本意
これむなしきに似たりされは古人の申せしにも忠孝二ッ
なから全き事を得かたしとこそ侍れ重政既に人に仕ふる
身となれり母をすくふ事及ふへからす詮する所たとへ
不孝の子となりぬとも不忠の人に組せん事かなふ
へからすと返答す滝川九鬼これを聞てにつくい物の
いひやうかないて〳〵その義ならんには山口めか城せめ
やふつてすてばやとて 大野の城にをしよす重政
勢こそなかりけれ所々の御方に急を告寄くる敵