翻刻
【右丁】
《割書:よつて日比両御所の御気色よろしからすしかるに今但馬守かの|石川か息男の姉をのみ我子にめあはせし事 上をなひかしろにし》
《割書:奉る所なりとて御旨にさかふ事大久保か伝と合せ|見るへし世に伝ふる諸説こと〳〵く借(信)【左に◦】するにたらす》同き十五日
重政一封の書を献て罪なき由申披しかと御ゆるされ
なかりしかは武蔵国入間の郡に蟄居せり明れは十九年
の冬大坂の軍起る重政重信父子郎等少し召具して
海道を馳上り箱根の関にてとゝめられ引返して又
山道にさしかゝる程なく御和睦事成てことしも
既に暮ぬ明る元和元年の夏軍ふたゝひ起りたり
父子此度はさまをかへ山道より忍ひのほり井伊掃部頭
直孝か手に属て河内路より向ふ五月六日の戦に《割書:若|江》
【左丁】
伊豆守重信まつさきにすゝみ馬武者五騎きつて落し
六騎にあたる敵と引くみさしちかへて死したりけり
《割書:ある説に此夜重政直孝か陣にゆきむかふありあふ人々重信か事を|いゝふらふ重政されは愚息かうち死つかまつりし事かの年頃の》
《割書:本意つゐに達しきなけきの中の悦たりさりなから御勘気の|中に死せし事死してのうらみもさこそふかくや侍らめと》
《割書:涙と共にこたへしをきく人皆鎧の袖をぬらしけりこゝに直孝は|とふらひをはのへずしてさかりなる子をさきたてゝつれなく残りし》
《割書:老の身は何をたのみにいきけんとさしあらはしてはいはねともことばの|末にそ聞えたり重政大に怒てすてにさしちかへんとしたりしを》
《割書:人々中に立ふさかりさま〳〵に中なをらす今日若江の戦に直孝|か麾の揮やうあしきとて重政かをしへしをはぢいかりて直孝》
《割書:かくはいひし也それより二人不快にして重信かうち死せし有さま|直孝かくとも申さねは執し申すへき人さらになく重政なけきの中》
《割書:にいきとほりてむなしく月日を送り死してのち二人の男めし|出さるとなり又一説に重政も手おふて疵をうれへほとなく死す》
《割書:又一説下|に見ゆ》此のち重政めし かへさる《割書:重政とし ころ本多美濃守忠政|にしたし 天寿院殿は忠政の》