翻刻
【右丁】
承り又散楽の事を兼司る十八年 天下の大名系図
をめされしに資宗その事を掌る正保二年正月十一日
遠江国浜松の城にうつる《割書:三万六|千石》資宗よはひかたふきしかは
寛文十一年十二月十九日致仕して髪おろし道顕と号す
《割書:資宗世々につかへ夙夜の労をかさねしかはいかなる御恵にも あつかるへき身|といひなから も 左大臣家代をしろしめして 初より たちまちかく身》
《割書:をたて家ををこしける事しかしなから其故なりと也 世に申けるたとへは|大相国家の御台所とも申し奉るは贈正二位大納言藤原長政卿の《割書:近江の浅井|備前守殿也》》
《割書:御娘にて此御はらにまうけさせたまひしわか君二人ありけり太郎は竹千代殿|後に大猷院殿贈大相国と申し奉る 左大臣家の御事也 次郎は国松殿と》
《割書:申しまいらせ 駿河大納言殿と申せし御事なりおなし 御子なり けれは|御いとおしみのほといつれまさりおとりはおはしますへき たかきもいやしきも》
《割書:したしきもうとき もいとけなきをはなにとなくあはれむはよのならひ也|すゑの御子にてまし〳〵けれは御台所国松殿を御いとおしみありしを》
《割書:よそ目には次郎殿を御世つきにそたてまほしくおほしめしぬるとそ思ひ|ける竹千代殿の御乳母春日のつほねと聞えしは明智日向守光秀かおとな》
【左丁】
《割書:集藤内蔵助とてさる おそろしき 武士のむすめ也 女なれと心猛く|謀あつて 此事をふかくねたましくくやしき事におもひこめ神に》
《割書:仏にいのりいかに もして竹千代君のうこきなく御世つきの君にたゝせ|たまはん事をはかるこゝに資宗か伯母なりけるおかちのつほねは当時》
《割書:ならひなき 駿河の 御所の御寵愛なり けれは此人に つきて此事を|うれへうつたふ大御所もはしめのほとは女の物ねたみしてかく思ひまして》
《割書:うつたふるにこそあれいかてさる事やあるへきと思しめさる日をつみ月を|かさねてうつとふる事ともまことしけに聞えけれは いや〳〵さも 有》
《割書:なんには天下の大事此事に ありぬとて いそき関東に くたらせたまひ|その事 なく 竹千代殿は天下のあるしにてわたらせ 給ふとて ことに》
《割書:うやまひおほせけれは 世つきの君に今はとさたまらせ給ふやうにそ|見えたる春日の局大に悦て竹千代殿にあなかしこおかちのつほね》
《割書:の恩なかまへて〳〵わすれさせたまひそ此人の執し申事なから|ましかは君の天下をは国松君にせられさせたまふへかりしものをと》
《割書:おさなくわたらせたまひしより口につけて いひをしへ参らせ候事|こそおほからぬ御兄弟の御中にひま出来させたまふへき はしとなり》
《割書:ぬれは国家の禍おほくは婦人より起るといふとおもひあはせられて|うたてかりし事とも なりかゝりしのち左大臣家世をしろしめされて》
《割書:かの恩にむくひまほしく思し召けるにおかちのつほねの由縁の人とて|此資宗はかりなれはかくはなしたてさせ給ひしとそ聞えける》