翻刻
【右丁】
学はせたまふ程に梵其法のある所こと〳〵く伝はらせ
たまへとも宗矩には及はせたまはす常に御心を労させ
たまひけり ある時 宗矩古の人も親の得る所 子に
つたへ難しとこそ申して 候ひつれ 此上は たゝ
御心にをのつから得たまふより 外には有へからす
さりなから 宗矩も むかしある 師につきて 禅に
参せし事の候ひしにいさゝか得る所 あつてわか術
すこしすゝみ候ひき不言の妙に至ては禅を仮て
術を喩し候にはしくへからすやと申す左大臣家
大に悦はせたまひ抑汝か学ひし師をは誰といふ
【左丁】
我また誰につきて学へき 汝すゝめ申せとそ仰られ
しかは臨済の一派 宗享の遠源沢庵【廬】宗彭を進む
頓て関東に 請したまひ 宗矩此僧と共に一宗
書撰て献しこと〳〵く禅を 仮て 術をさとす
忽にその妙をさとらせ たまふ事 あつて沢庵【菴】
同しく御帰依の 僧となりに けり宗矩はしめ
此術によつて身を起しけれは世のひとは只此事
にて御信敬のほと浅からずとのみ思ひけり此人
さるふるつはもの凡天下の時勢をよく 知て禅
を仮ては術をさとし術をいつては政事をさとす