翻刻
習(なら)ひ。あつもり直実(なをざね)と組(くま)ずはいかてかく善道(ぜんどう)にいらんや。天(あつ)
晴(はれ)某(それがし)もかゝる人と参りあひてきらるゝ事はいや
くまかへが杯(さかづき)ならば引くんでおさへられてものふでみたしや
北に続(つゞき)て神楽岡(かくらをか)春日(かすが)の宝前(ほうぜん)にまうで。東(ひかし)に出て鹿(しゝ)が谷(たに)の
法然寺(ほうねんじ)仏(ぶつ)づめの念仏(ねぶつ)他(た)にすぐれすしやうに。浄土寺(じやうどじ)のさとに入る。
爰(ここ)に昔(むかし)慈照院(じせうゐん)の別業(べつぎやう)銀閣(ぎんかく)寺あり。さしもいみじき跡(あと)な
がら。星霜(ほししも)やゝうつりて。今は名のみに。松たかく梟(ふくろう)すごく。物
いへば嵐(あらし)梢(こずへ)にこたへする。又 後(うしろ)の山にてとしごと七月十六 夜(や)
をくり火の大文字(だいもんじ)たく。高野(かうや)大 師(し)の筆跡(ひつせき)とかや。此 北(きた)近(ちか)く
出て白川のさと。彼(かの)八才の宮の
みちのくの関(せき)迄行ぬ白川も日かすへぬれは秋かせぞ吹
といふ古歌(ふるうた)をひかせ給ひし名所(なところ)。さとの者のなりわひとて
屋 作(づく)りの用石(ようせき)を切(きり)出す。京 童(わらべ)のことくさに小 米石(こめいし)といふを
鑿(のみ)あてゝ白かはけづるからうすにふまぬさきよりちる小米かな
此山あひを東(ひがし)へゆく道を山 中越(なかこえ)といふ。あなたは志 賀(が)こなた
は三 井(ゐ)の古寺(ふるてら)。左(ひだり)は都のふじがたけ花のふゞきのとよみしは
此 道筋(みちすじ)となん。やごとなきかたは左(さ)もよみ給ふべし。わがお
ろかなる口にては山 中(なか)大こんをことの葉(はの)種(たね)にせんとて筍(じゆん)さい
山中にいかひねを出す鴬(うぐひす)はきいてきみよしからみ大こん
引かへして右に行ば知恩寺(ちをんじ)あり鎮西流義(ちんぜいりうぎ)の四 ケ(か)のひ
とつなり。こゝにて哀なる事を見き。としのほど六十(むそじ)斗(はかり)の
ちさき男の有徳(うとく)らしきが。ゑもんさはやかに四(よつ)めゆひの