翻刻
紋(もん)つけて。なまめける女まじり。若党(わかとう)小者(こもの)おほ〱て。此寺
に参りけるを。寺前(じぜん)の茶園(ちやぞの)より三十(みそじ)余(あまり)の健(すこやか)なる男。つ
と走(はしり)出。門外(もんぐわい)にて。彼(かの)親仁(おやぢ)をとつてふせ。刀(かたな)をぬひて心もと
におしあて。天晴(あつはれ)己(おのれ)はにくきやつかな。我は是 汝(なんち)が妾(せう)【左ルビ「てかけ」】の夫(おつと)定(さだめ)
て覚(おぼ)へあらめとのゝしる。召つれたる者(もの)共も。すくはんとする
に利(とき)かたなを胸(むね)にあてたれば。せんかたなく。つゐにさしころ
してけり。寺内(じない)門前(もんぜん)騒立(さわきたち)棒(ばう)ちぎり木(き)に取こめて。とりこ
にしけるとかや。此のちの事はしらずなりき。此 老(をい)たる
男。妾(せう)がいろに深くまよひ。此事つのりてかく浅(あさ)ましき
命終(めうじう)をしけりとぞ。実(けに)老(をひ)たるも若(わか)きも智(ち)あるも愚(をろか)なる
もと恥(はぢ)しめけむ。此まどひのひとつこそはなれぬ物なれ
けふは此あはれにひかれて念仏(ねふつ)ともに西(にし)の京に帰りぬ
三 廻(めぐら)ぬ薬(くすり)自慢(じまん)酒(さか)つぼの亀(かめ)山
かへれは相借(あいじやく)やの内義(ないぎ)が。もうし筍斎(じゆんさい)さま。るすの内にりやう
ぢを申て参りました。五 辻(つじ)の駕(かご)かきと。下(しも)の町のやくわ
むやの弟子とでこざるといふに。草臥(くたびれ)たれどみまふてやらふ
迄(まで)と。つゐいて帰る。さて。はやい御 帰(かへ)りやわづらひは何にて
候やといへば。さればかごかきはあたまに胼(あかゞり)がきれ。今壱人は
かいながつけて尻(しり)がいたむほどに。皆(みな)かうやくをつけて帰り
ぬと。扨(さて)々 珍(めづ)しひいたみ所かなといへば。胼(あかゝり)はゆびのあたま。
尻(しり)のいたみは。ひぢ尻(しり)といひけるに。内義(ないぎ)はあきれて物もいは
すなりぬ。かゝりし所へ絶(たえ)て久しき物まうをこふ。たそと
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之一-三 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/155】