翻刻
はなかりけりに。筍斎今は為(せん)かたなく又なき秘書(ひじ)にてあれ
ど此上は教(をしへ)申さん。たばこのかたをせんじて用ひ給へといひ
捨(すて)て逃(にげ)かへる。思ふにおろしこといふ事かと皆人わらひ
になりぬ。此後はしらず
五 果報(くわほう)は唇(くちびる)につくさが土器(がはらけ)
ある日。暮(くれ)に及(およひ)て侍壱人 仕丁(じてう)に駕(かご)つらせて筍斎が家にあ
なひ乞(こふ)。身は何がしの中納言につかふる者に侍り。主 人(じん)黄門(くわうもん)
いたはる事 侍(はべ)りて。さがなる下屋敷に保養(ほやう)のため罷ある
筍斎老に脈(みやく)を頼申度よし申され打つけなから駕(かご)をつ
らせ侍りといふ。筍斎 例(れい)のうそ勿体(もつたい)当所に急病(きうびやう)多(ほをく)侍れ
ば。今にも人や参らんといふ所へ。あぶらの代(しろ)を乞(こひ)に来りて此
中申まする油(あぶら)のといひ出せば。明日(あす)〳〵といふてかへす。跡(あと)にて
あふらげを好(このみ)ては何ほど薬(くすり)を用(もち)ひても。きかぬはづしやとい
ひなをせど人はしりぬ。又女ほう一人 前(まへ)だれすがたにて。つと
いりて木(き)やのは拵(こしらへ)てこざるかと。筍斎 貌(かほ)に火を焼(たき)てすかさず
詞(ことば)をけあすやらふといへば。あすあさつてとおしやつても。は
てゝこそとのゝしり帰る。跡(あと)で侍(さふらい)へ又あいさつに。只今(たゞいま)の女
娘(むすめ)ひとりもてり。此 者(もの)きやみいたすが。ながび〱性(しやう)で。あすあ
さつてと申てもとけしなく。子ゆへにはらをたて侍ると。い
ひまぎらすもにくしや。とかくする内 時刻(じこく)うつれば。こなた
へとかごさしよせたる。ねめ介こひよ。男どもに留守(るす)よふせ
よと。せんしやうつねのごとくいひちらし。かごに打のり行
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之一-五 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/160】