翻刻
漸(やう〳〵)五更(ごかう)にさがにつけば。いまだ御 寝所(しんじよ)におはしますよし
相まつほどに御 目覚(めさめ)て。筍斎をちかく召れ。はる〳〵よくそや
来り給ふ。先 初見(しよけん)の杯(さかづき)とて御かはらけをたぶ。よもすがらに
月と友(とも)にまいりたるよし申上。例(れい)の口くせおめずおくせず
都よりいたゞきづめの朝朗(あさぼらけ)さかかわらけさか月のかげ
と申ければ御きげんよろし〱。筍斎はきゝ及(および)ておや竹斎
から口のかるひ者かなさればこそ杯盃の上も今すこしかるし
とくと請よと仰ありて
さかづきの影をさしたる朝朗さががはらけの西にかたふく
事過て御 脈(みやく)を胗(しん)し御請申て薬をあげぬ仕合やよ
けん五七ふくの内に御ほんぶくなりぬ。御よろこびかぎり
なく殊(こと)に迎(むかへ)に行し侍(さふらひ)が筍かいたうまづしき体(てい)を申
上ければ。黄金(わうごん)おほく。羽二重(はふふたへ)なんどいふ。召おろしの御小袖
えならぬかほりしけるを給はりければ
いにしへのならぬ所帯(しよたい)のやれがみこ
けふはふたえににほひぬる哉
と申上てにしの京へ帰りぬ
新竹斎巻之一