翻刻
こじりびこつかす。当 時(じ)世になる男だて。此有さまにむねわる
がり。ある日 芝居(しばゐ)の帰るさ。筍斎が。やせ足をちぎるゝ計 踏(ふみ)て
通る。あいたしと。しかむる貌(かほ)をすぐさまに。十めん作(つく)つてねめ
つけ。是さおとこ眼(まなこ)をあけと。ねぢもどるふみ手の男聞て。扨は
御坊の御すねであつたかいたみ申か咲止(せうし)やとあざ笑(わら)へば。筍斎
たまらずこらへかね。するりとぬひて切つくる。わか者(もの)すかさず
もぎ取て小がいなをねぢ上る。ねめ介 続(つゞい)て取つくを。七
八間なげたれば砂(すな)にまぶれて起(おき)あがり。かさねて口をきかせ
まじ。まつひら御免と手をあはす。往来(ゆきゝ)の人。立とゝまり
見物しゐたりけるが。余(あまり)に見かね笑止(せうし)がりて。とも〳〵にわふる
にそやう〳〵にゆるしける。此時見物の内より
いだてんに口の過たるあまのじやくほかむもおかしふまれての上
とよみければ筍斎 遥(はるか)に逃除(にげのひ)て口の内に
あまのじやくふまるゝとても口計はたゝきかへしてまけぬ也けり
とつふやきて西の京に帰る
三 嵐(あらし)にゆがむ松尾(まつのを)の相撲(すまふ)
在(あり)し恥(はぢ)にもこりず。くだらぬ理 屈(くつ)あはう口引づり羽折長づ
きん。暮(くる)ればそゝる鼻(はな)歌のしどろ足もと行あたりふまれて
帰る折もあり。水は方円のうつけものに随(したが)ひ。人は悪(あし)き友による
猶 燃(もゆる)火(ひ)にたき付て。灰(はい)となり土となる。身の末(すゑ)何となら
柴(しば)の露のうき世の夢(ゆめ)の間に。死(しゝ)て花実がならばこそ
まくずが原と出てさわげと。夜日をわがでうかれゆく
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之二-三 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/165】