翻刻
なんと拵(こしらへ)りやうぢに事よせて知人になり。実の人品を見るに又こら
へられず。責(せめ)て木偶(もくぐう)は動(うこか)ず可笑計(おかしきはかり)なるに。正体(しやうたい)の立ふるまひ
声(こゑ)は堂(だう)の鳩(はと)のやうに物いひしたどに。よだれ水はなの時雨(しだれ)偽(いつはり)の
なきかんばんの外さへそひて。ひとつもとり所なければ。皆(みな)堪(たへ)かねて
逃(にげ)かへる。後は此手にこりて。大かたにては人に逢(あは)ず成ければ。なら
ぬをしたふ人の心。猶みたがり逢(あひ)たがりて隣家(りんか)町内の縁(えん)を求
て行合(ゆきあひ)酒 肴(さかな)なんど饋(おくり)ければ。中々りやうぢはせねども。腹(はら)
便々(べん〳〵)として活計(くわつけい)身に余(あまれ)り。此さた広(ひろく)〳〵武陽(ぶやう)の咄(はなし)に成て
笑(わらひ)のゝしる。下々はさる事にておく住の女 中(ちう)などは。やすく行
て見給はねば。御 慰(なぐさみ)にめしよせらるも。りやうぢをいひ立にわか
とう小者に駕(のりもの)をつかはし。取よせて御らん有ては。上(かみ)中(なか)下の
人々動をつくる屋敷もあり。あるは五人も七人も頤(をとかひ)のかけかねはつ
れて大 工(く)づかひの所も有。かゝる寄異(いきゐ)の見物(けんぶつ)はと黄金(わうごん)白銀(はくぎん)小袖
の賜(たまもの)いやが上に重(かさなり)。蔵(くら)に満(みち)たり此故に不日(ふじつ)に有得(うとく)の身となり
ぬ。是につきてふしぎ有。筍斎 元来(ぐわんらい)京に生れて。中老(ちうらう)迄都に
居(ゐ)けり。尤(もつとも)其形おかしからぬは非(あら)ねど。是ほど異相(ゐさう)に鈍(どん)にはみえ
ざりし。爰に来てよりかくすぐれておかしがられ身上(しんしやう)のたつ
きに成迄の事。おもふにくらまの多門天の方便(はうべん)なるべしと
玉 蔓(かづら)ねめ介はいひおれど。己(おのれ)は只一分の利口(りこう)に出(で)かすと思ふそ又一 興(けう)なる
四 うそ咄(はなし)の始(はしめ)口 広(ひろ)し狼(おほかめ)
ある日 去(さる)やごとなき御かたに召れ。終日(ひねもす)嬲(なぶり)物にし御 慰(なぐさみ)ある中
に。とかく此 坊主(ぼうず)は。過差(ぐわさ)にして。物ごと利 口(こう)だてするぞ。そだて
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之四-四 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/189】