翻刻
何兵衛何ゑもんは有ふれておもしろうなし。男女ともに異(い)
国人の名をつけてよばんと。先六 尺(しやく)四人を陳平(ちんへい)張良(ちやうりやう)焚会(はんくわい)
周勃(しうぼつ)と付たり侍を司馬生(しはせい)。ざうり取を安録山(あんろくさん)。小しやうを延(ゑん)
要伯(ようはく)物ぬひを茗都氏(めいとし)。中ゐを楓呂子(ふりよし)。女房玉かづらを西王(せいわう)
母。下女を怒議指露(とぎしろ)と付たり。世人此 銘々(めい〳〵)を聞て。扨かは
つたる名どもかなと。愚なる者(もの)はむしやうに奥(をく)ふかう信(しん)じて知
ず。なま心ある者どもは筍斎が例のわるこび。かうした心で
あらふとしたりくつて。つけつゝふと種々(しゆ〴〵)に分別し。さた
すれど縁(ゑん)の下の舞。あはねばしれぬ鼓(つゞみ)の音(をと)直(ぢき)にふしんをう
つてみよと。名ゆひて子細をとへど。あさはかに申きかする
事にてなし。心をくだき解(とき)給へと殊更の自賛(じさん)中々
いひ出る事なかれば。扨はよのつねふかき心もこそと暫(しばし)信仰(しんかう)
らしく成ぬ。よしさらば此 侭(まゝ)にいはでも止(やみ)なば。少 学問(かくもん)あるや
うに思はれんを。ある時 酔(ゑい)の上にて。人々 例(れい)のそだてを以て
扨々 当時(とうじ)天が下に。貴方(きほう)ほど博学(はくがく)多才(たさい)の名医(めいい)又あらふとも
おもはれず。召つかひの者迄。其心にて呼(よば)るゝなど。きひてきみ
よき薬(くすり)のお家。唐のものどもならては。つかふて思ふやうにまは
らぬはつじや。出来たのといふ。筍斎 頭(つふり)をふつて扨はかた〳〵は
薬種(やくしゆ)に表(へう)して唐(から)の名を呼とおしはるゝや。其やうな思案(しあん)で
は念もなひとけぬが道理。いかに違(ちが)ふたと舌打(したうち)して。あちら
むく。人々せきたる貌(かほ)に。御 坊(ぼう)の子細(しさい)らしういはるゝとも。是
より何のふかひ義理(ぎり)があらふ。さああらばいふてみ給へと追(をい)