翻刻
里(り)を下にみおろす。上のゝ花の遊興(ゆけう)雲井(くもゐ)をうつす。角田川(すみだがは)の
月の翫水(ぐわんすい)酔(ゑい)の隙(ひま)なきに心 紛(まぎれ)て其かた此かたの行 見舞(みまひ)怠(をこたり)がち
也。ある日 去(さる)仏法(ぶつほう)ずきの家に罷けるに。いかに此程は音信(いんしん)もなかり
けるやと尋(たつね)らる。筍斎 件(くだん)のついさうに。ちかき比は拙子(せつす)も殊外 後(ご)
世心いできまして。諸 寺(じ)の参詣(さんけい)に暇(いとま)あらず。わきて此程 我師(わがし)の
寺に千 部(ぶ)の御 経(きやう)有て毎日まうづる。けふは中(ちう)日ゆへけさより参り
只今 下向(げかう)いたす。余(あまり)無 音(ゐん)に侍る程に推参(すいさん)仕ぬと云。まざ〳〵
虚(うそ)らし〱思ひながら。ちか比 殊勝(すしやう)にこそ候へ。其千部と云は
幾日(いくか)のほどにみつるや。日ごと百部つゝ誦(ず)して満足(まんぞく)十日の物
といふ。夫(それ)ならば不 審(しん)あり。三五七九の物には中日といふ有べ
し。何 ̄ンぞ十といふ内に。中日あらん。扨も不部合(ふつがう)や。うそと