翻刻
服(ふく)するもの世間(せけん)に多しこれ全(まつた)く飽食(はうしよく)より出る病なり凡(およそ)人は
飢飽(きはう)ともよからぬ事なれど是(これ)らを以て見れば飢(うゆる)かたは病(やまひ)によろ
しきと見えたり皆(みな)人(ひと)飢(うへ)て死(し)するは甚(はなはだ)稀(まれ)なり食に飽(あき)て死(し)するは
きはめて多し都(すへ)て病あるときは数日(すじつ)食(しよく)せざれとも其病の邪(じや)
熱(ねつ)が食(しよく)になつてある故くるしからず多くは断食(だんじき)よろしき事/医書(いしよ)
にも見えたり勧(すゝ)みがたきを強(しゐ)て食(しよく)すれば却て養ひにはならず食
道(とう)をふさげて薬(くすり)もめぐらず弥(いよ〳〵)病を増(ます)といへり天竺(てんじく)にては諸病を断(たん)
食(じき)にて治する事/義浄三蔵(きじやうさんざう)の南海寄帰伝(なんかいききでん)に見えたり三蔵/天(てん)
竺(ぢく)より帰り給ひ此事をすゝめたまひしかども唐土(もろこしの)医者(ゐしや)も其世に
は用ひざりしよしなれば本朝(ほんてう)にも此/術(じゆつ)つたはらず三蔵は自(みづか)らこの
此/療術(れうじゆつ)を用ひて九十/余歳(よさい)をたもてりとそ東坡(とうば)は朝夕に
魚肉(きよにく)一品より多(おほ)からしめず一には分(ぶん)を安(やす)んして福(さいはひ)を養(やしな)ひ二には胃
を緩(ゆる)め気(き)を養ふ三つには費(つゐえ)をはぶきて財(さい)をやしなふといへりこれ
養生と倹約(けんやく)と兼行(かねおこな)ふものなり都(すへ)に食物(しよくもつ)にかぎらず養性につき
てはおのづから倹約に成(な)る事/多(おほ)し能事(よきこと)は何(なに)も角(か)もよきもの也
去(さり)ながら養生の事に付はわづかの費(つゐえ)をはいとふべからず○酒(さけ)は百薬(ひやくやく)
の長(てう)といへば少しつゝ嗜(たし)むときは気血(きけつ)をめぐらし身を潤(うるほ)すしかれ共
過酒(くはしゆ)するときは肺(はい)をかはかし熱毒(ねつとく)を帯(をび)て百病これより生す酔(よひ)
臥(ふす)こと大に身を害(かい)す寐酒(ねさけ)は大に不養生なりすべて酒(さけ)によつて
病(やまひ)を生する事はさらに解(とか)ずといふとも人のよく知る所也/慎(つゝし)み心得ふ
へし○湯茶(ゆちや)渇(かつ)するときばかり用ひて其/余(よ)は呑(のむ)べからず脾胃(ひゐ)
は湿(しつ)を憎(にく)む又/飲物(のみもの)多けれは小便(しやうべん)しげし小便につれて身(み)の
潤(うるほひ)もぬけて元気(げんき)をへらす飲物(のみもの)少けれは脾胃つよく東坡(とうは)曰
昔(むかし)ある人/若(わか)きより湯水(ゆみづ)を禁(きん)じて年八十三に及ひて形気(かたち)四