翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション4

養生主論 - 翻刻

養生主論 - ページ 20

ページ: 20

翻刻

に逢(あふ)たびごとに養生(やうじやう)の道を解(とき)きかせしにはじめは馬耳風(はにふう)の如(こと)きさまな りしがいつしか耳(みゝ)に止(とゝ)まるやうになり後(のち)には養生(やうしやう)の書を求(もと)め自(みづ)から 勤(つと)め学(まな)びしかは身持(みもち)ふるまひ正(たゞ)しくなりて慈悲心(しひのこゝろ)深(ふか)くなりしは 是則/養徳(やうとく)といふへきものなり   予/上(かみ)にいへるごとく朝夕(てうせき)養生を心かくるゆゑにや久(ひさ)しく煩(わづ)らは   す壮健(すこやか)なりといへども定業(ちやうこう)は朝(あした)をも期(こ)せずしかれども此/篇(へん)に   述(のぶ)るところは皆(みな)聖賢(せいけん)の明言(めいごん)なれは養性の道(みち)に志(こゝろざし)あらん   人は用ひたまふに足(たり)なんか去(さん)ぬる頃(ころ)東武(とうぶ)に長命(ちようめい)の術(じゆつ)を指(し)   南(なん)するものあり其比(そのころ)大坂に養生(やうじやう)ふかき男此江戸の指南者(しなんしや)   のことを聞(きゝ)つたへ何とぞ態々(わざ〳〵)江戸へ行(ゆき)て長命(ちやうめい)の術(しゆつ)をきゝたく   おもひたりしかども遠路(ゑんろ)の事にて其志(そのこゝろさし)をとけざりし内(うち)に江戸   の指南者(しなんしや)五十八才にて頓死(とんし)なしたるよしを告来(つけきた)るに大坂人   大に悲歎(ひたん)し其術を聞(きか)ざりし事を悔(くひ)たるにかたへに居(ゐ)たる人大に   笑(わらひ)て御身いと愚(おろ)かなる事(こと)をいふ人かな其/江戸(ゑど)の指南者(しなんしや)いかて   長命(ちようめい)の術をしる者(もの)ならんや若(もし)其術をしるとせは五十/有余(ゆうよ)を以て   死(し)すべけん是/術(しゆつ)をしらさるの証(せう)なりといふに大坂人/答(こた)へてそれは   御身こそ愚(おろか)なる詞(ことは)といふべし既(すで)に広(ひろ)き江戸にありて長命の指(し)   南者(なんじや)と唱(とな)へ百余里を隔(へたて)たる京摂(けいせつ)にまで聞(きこ)ゆるにはいかて其術を   しらざるへけんや然(しか)れ共/養生(やうじやう)にかぎらず諸道(しよたう)ともしらずしてよく   行(おこな)ふ者ありしつて而(しか)も行(おこな)ふことあたはざるものあり彼(かの)指南者(しなんしや)も   これを知つて行(おこな)ふことあたはざる者(もの)にて有(あり)しものならんすべて   知恵(ちゑ)と行(おこなひ)は別(べつ)の事なりといひけるとなり孔子(こうし)の宣(のたま)はく言(こと)を   以て人を不用(もちひす)人を以(もつ)て言(こと)を捨(すて)ずとされはおのれ愚昧(くまい)短才(たんさい)なれ   共/希(こひねが)はくは此/編(へん)の言(こと)を捨(すて)給ふ事なかれと云爾